高校のクラスであまり縁のなかった対照的な性格の2人が、たまたま同じ図書委員に選ばれたことがきっかけで一緒に過ごす時間が生まれ、徐々にお互いを手探りして心の距離を狭めていく物語だ。ただ、話は一直線には進まない。主人公の伯母の学生時代の友達とのエピソードと、その伯母が途中まで書き残した絵本の内容が交錯しながら描かれ、やがてひとつの大きなうねりとなって展開していく。
描かれているのは、日常のほんのささいなできごとばかり。たとえば、学校のクラスにいつの間にか友達のグループができる中で、自分の立ち位置がうまくとれず、ひとりになってしまう恐(こわ)さと緊張感。他人に対する期待と恐れのいりまじった自分の気持ちに耐えかねて、ひとり内にこもってしまう、かたくなな姿勢。そんな不安を少しずつときほぐしていくように、物語はやさしく心のひだに分け入り、手触りのあるタッチで、光を当てていく。大人になったら忘れてしまいそうな大切な記憶の数々。けっして読みやすくはないが、この描き方でなければすくいとれないものが、確かにそこにある。
今と、過去の記憶と、カッパと猫と恐竜の登場する話。三つが織りなすメッセージが温かく心に残った。=朝日新聞2024年7月6日掲載