- 『サマーゴースト』 乙一著 loundraw原案 集英社文庫 550円
- 『夏を待つぼくらと、宇宙飛行士の白骨死体』 篠谷巧著 ガガガ文庫 836円
- 『砂嵐に星屑(ほしくず)』 一穂ミチ著 幻冬舎文庫 825円
ひと夏の物語を三作。
郊外の飛行場跡地で夏に花火をすると、自殺した女の幽霊(サマーゴースト)が現れる。(1)はそんな都市伝説を巡る青春ミステリー。高校三年生の友也はネットの掲示板で知り合った涼とあおいを誘い、幽霊に会いに行く。「死ぬって、どんな気持ちですか?」と尋ねるためだ。三人の少年少女は、自殺志願者だった。ところが、現れた幽霊は、自分は殺された、地中に埋められた死体を捜してほしいと依頼する。「犯人捜し」ではなく「死体捜し」を進める過程で、主人公たちは自死の衝動を否定するロジックを手に入れる。死者の存在が、生者を生かす。生者と死者が混交する季節ならではの、抒情(じょじょう)的な物語だ。
(2)は高校生活最後の夏休みの思い出作りにと、深夜の旧校舎に忍び込んだ主人公が、そこで宇宙服を着た白骨死体と出会う。本物なのか? 幼馴染(なじ)みの四人組が再集結し、謎解きという名の自由研究を始める。良質なジュブナイル・ミステリーだ。
新直木賞作家の隠れた名作(3)は、大阪のテレビ局を舞台にした春夏秋冬全四話の連作短編集。第二話「〈夏〉泥舟のモラトリアム」の主人公は、五十代のテレビマン。夏のある朝、地震で電車が止まり、徒歩での出勤を余儀なくされる。道中で目にする風景が様々な記憶を呼び覚まし、これまでの自分の仕事を見つめるスイッチとなって……。汗でドロドロになった一日が、憂鬱(ゆううつ)な気持ちをカラッと晴らす。ひと夏の物語は、おじさんにだって似合うのだ。=朝日新聞2024年8月10日掲載