ガイドブック、いや「山小屋図鑑」と呼ぶほうがふさわしい一冊だ。
紀行作家とイラストレーターが、北海道の大雪山から九州・くじゅう連山まで全国145軒を訪ね歩き、1軒ずつ見開きで紹介する。1泊して24時間のんびり滞在し、夕食のフレンチの味や絶景の露天風呂、館内の蔵書のほか、主人らに聞いた小屋の歴史をつづった。
目を見張るのは雄弁なイラストだ。山小屋の構造を立体的に再現し、それは間取り図の域を超えている。宿泊客が出発した午前中、スタッフがお茶で一息つく傍らで室内をスケッチしたという。
八ケ岳や日本アルプスの項では標高2千メートル超に立つ山小屋も次々登場し、この酷暑の下界からいますぐ飛んでいきたくなる。登山経験にかかわらず、山小屋の魅力を十二分に堪能できる。(伊藤宏樹)=朝日新聞2024年8月10日掲載