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飯城勇三さん「本格ミステリの構造解析」インタビュー 謎解きに魅せられた人生

飯城勇三さん

 謎解き重視の推理作家エラリー・クイーン研究の第一人者にして、本格ミステリ大賞の評論・研究部門を3度受賞。ミステリー界きっての読み巧者の新作評論は、作家と読者の“共犯関係”が重きをなす小説ジャンル、本格ミステリーの特殊な構造を鮮やかに解きほぐす。

 第一章の「トリック・データベース(DB)」なる概念からして刺激的だ。小説のみならず、「金田一少年の事件簿」「名探偵コナン」といったドラマやマンガの影響で、日本の読者は大なり小なり過去のトリックの知識を蓄えている。すれた読者を欺き、驚かせるために作者が用いる「トリックDBの検索を失敗させる」手法の事例を次々とあげていく。

 読者を意識した読み解きは幼少期の体験がもとになっている。子供向けにリライトされた江戸川乱歩作品やルパンものに親しんでいた小学5年、人生を変えたのがクイーン『靴に棲(す)む老婆』だった。

 「自分が探偵になったつもりで読むようになったころで、犯人はわかったのにページはまだまだ残っている。読み進めると、それまでの推理が一気にひっくりかえった。けた違いの面白さでした」

 学生時代に老舗愛好会「SRの会」に入り、1980年にはクイーンのファンクラブを立ち上げた。以後も会社勤めをしながら活動を続け、会報は通算120号に達した。

 クイーン作品は、令和になっても複数の出版社から次々と新訳が出ている。『地雷グリコ』で山本周五郎賞を受けた青崎有吾さんをはじめ、読者とのフェアプレーに徹したロジック展開の影響を口にする若い作家も多い。

 「第2次大戦前後に流行作家だったクイーンの作中の事件には、当時の米国社会の現実が色濃くにじんでいます。ジェンダーや人種差別、宗教や老いといった現代にも通じる問題が、読むたびに見つかるのも魅力の一つですね」

 自身の筆名もクイーンのもじり。「初めて本を出すときに名乗ろうとしたのですが止められてしまって。しかたなく漢字をあてたんです」

 EQⅢ(いいきゅうさん)(エラリー・クイーンⅢ世)。

 (文・野波健祐 写真・大野洋介)=朝日新聞2024年8月31日掲載