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「ホームレスでいること」書評 それぞれの人生の重み受け止め

評者: 野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2024年10月12日
ホームレスでいること: 見えるものと見えないもののあいだ (シリーズ「あいだで考える」) 著者:いちむら みさこ 出版社:創元社 ジャンル:社会学

ISBN: 9784422360188
発売⽇: 2024/08/27
サイズ: 13×16.8cm/160p

「ホームレスでいること」 [著]いちむらみさこ

 都内の広大な公園の木立に囲まれた一角にブルーシートのテントがいくつも建てられている。いちむらさんはそこで20年ホームレスとして暮らしている。そして、ホームレスの人たちの生活を守るために活動し、この本を書いた。私も、彼女たちの生活を守るために、この書評を書きたい。
 役所は「社会復帰」を促す。だけど、それが復帰したくなる社会じゃないから、ホームレスをしているのだ。そんな社会に対する居場所のなさの感覚は、私も――社会にどっぷりつかっていてなに言ってるんだと思われるだろうが――感じている。だから、いや、なんていうか、本との距離感がうまくとれなくて書評が書きにくいったらありゃしない。
 たぶん書くべきはただ一言。ホームレスの人たちにはそれぞれの生活がある。そのことを実感をもって受け止めること。そのためにも、ホームレスに差別意識をもっていたり排除したりしようとする人たちに、本書を読んでもらいたい。
 いくつものエピソードが語られるが、ひとつの典型例は東京オリンピックのときの渋谷区立宮下公園の改修工事だろう。多様性をうたい、強さを競い、勝利に歓喜する陰で、ホームレスが追い出されていった。商業施設の屋上に新たに作られた公園は、深夜立ち入り禁止となった。
 行政は福祉制度を利用してアパートに入るよう促す。だけど、それでもホームレスという生き方を選ぶ人たちがいる。正直に言って私はその気持ちを理解しきれない。しかし、この社会はいちむらさんを窒息させる。だから、少しでも楽に呼吸できるように、この生き方を選び、社会の中に収まることを拒むのだ。
 さまざまな人たちが登場する。ここに描かれているのは、でも、その人生の一端にすぎない。一人ひとりに、それぞれの人生がある。その重みを受け止めてほしいと、いちむらさんはこの本を私たちに差し出す。
    ◇
著書に『Dearキクチさん、ブルーテント村とチョコレート』。『エトセトラVOL.7 くぐりぬけて見つけた場所』の責任編集も。