ISBN: 9784908672767
発売⽇: 2024/08/09
サイズ: 13.6×19.5cm/430p
「朝鮮植民地戦争」 [著]愼蒼宇
関東大震災で多くの朝鮮人が虐殺された。昨今は「虐殺はなかった」とする否定論が流布されるばかりか、東京都知事までもが「(虐殺の事実は)歴史家が紐解(ひもと)くもの」との主張を繰り返す。こうした歴史改ざんの動きが顕在化している。
一方、虐殺に至る過程を詳細に述べた論考は乏しい。それ故に震災ジェノサイドが「混乱のなかで発生した偶発的な出来事」だとする見方もけっして少なくない。
虐殺は果たして一過性の例外的なものだったのか。本書は歴史を丹念に深掘りし、日本近代史の死角ともいうべき植民地支配の加害責任を描くことで「震災の混乱」だけでは捉えることのできない虐殺の内実へと迫る。
実は――19世紀末から、日本軍による朝鮮人虐殺は繰り返されてきた。日清戦争時の甲午農民戦争に始まり、朝鮮植民地化に対する抗日武装闘争、三・一独立運動など、朝鮮民衆への弾圧、殺戮(さつりく)を重ねた。著者は、日清戦争以降の50年を「朝鮮植民地戦争」と位置付ける。それは、日本側からすれば、植民地支配の維持を目的とした軍事行動であったが、朝鮮民衆にとっては抵抗の戦いだった。だからこそ日本は抵抗する人々を「不逞(ふてい)鮮人」と呼称し、徹底的に弾圧した。たとえば1920年には旧満州の朝鮮人居留区・間島で、日本軍は「在住日本人の生命・財産保護」を名目に学校、教会などを焼き打ちし、女性や子どもまでをも虐殺した。著者はこうした一連の虐殺を、「『殲滅(せんめつ)』と一般住民も巻き込んだ『連座』の論理が貫徹していた」と主張する。こうした植民地戦争の経験は震災時に引き継がれ、罪のない朝鮮民衆を虐殺していく。軍事行動の経験者(在郷軍人)は自警団の〝主力〟を担った。震災時の虐殺も同様だ。そう、震災ジェノサイドは、まさに植民地戦争の延長線上で起きたのである。
その連続性はいま、絶たれたと言えるのか。ヘイトの時代を生きる私たちに本書は問いかける。
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シン・チャンウ 法政大教授(朝鮮近現代史、日朝関係史)。著書に『植民地朝鮮の警察と民衆世界 1894-1919』など。