- 『就職氷河期世代』 近藤絢子著 中公新書 968円
- 『長寿期リスク 「元気高齢者」の未来』 春日キスヨ著 光文社新書 946円
バブル崩壊後から二〇〇〇年代前半に学校を卒業した就職氷河期世代の経済的不遇についてはすでに広く知られている。(1)は、同世代の動向を、その前後世代と比較しつつ大規模データに基づいて多角的に明らかにする。事実、氷河期世代とくに後期世代は雇用が不安定で低年収の状態が継続している。同時に、その下の世代も同様の状況に置かれている。つまり就職氷河期は一時の不況というより、労働市場に構造的な変化を与えた可能性が高いという。一方、氷河期後期世代は、上の世代と比較して子どもを多く産んでいるなど興味深い知見も示されている。本書は今後、氷河期世代をめぐる言論や施策が前提にすべき議論といえるだろう。
現在の八〇代以上すなわち長寿期を生きる人々の現実を描くのが(2)である。長年、家族研究に従事してきた著者は、特に在宅夫婦二人世帯に注目する。子との同居が減り、子どもに「迷惑」をかけたくないという意識も強い。こうして長寿期まで夫婦二人で暮らす世帯が増えているが、一人暮らしより支援につながりにくい。そうしたなか、夫婦間の性別分業が維持され、妻が多大な負担を負ってケア役割を続けがちだという。著者は、生活保障とともに高齢者が人とつながり支援を受け入れる「受援力」の必要を説く。氷河期世代の高齢化は、その親世代の高齢化を必然的に伴う。果たしてこの世代、特に不利を被った層に親の「受援力」を引き出す資源があるだろうか。=朝日新聞2024年11月9日掲載