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「福島の日常、文学として発信」和合亮一さん英訳詩集、アメリカの翻訳賞の最終候補に

和合亮一さん

 和合さんの英訳詩集「SINCE FUKUSHIMA」(ジュディ・ハレスキ、高橋綾子共訳、Vagabond Press)は、米文学翻訳者協会が主催する、アジア作品の英語版を対象とした「ルシアン・ストライク アジア翻訳賞」の最終候補になり、惜しくも受賞を逃した。2011年の東日本大震災直後にツイッターで発表した一連の詩をもとにした「詩の礫(つぶて)」収録作を始め、21年までの作品から編まれたアンソロジーだ。

 県立高校の教師として働きながら、「福島の日常や風土、空気感を描いてきました」という和合さん。生まれ育った土地の景色が様変わりし、教え子を失い、放射能の恐怖や怒りを感じる中、「地震や原発事故で非日常的空間になった福島を、初めは心の生(なま)の記録として書きつづっていましたが、自然に詩の表現になっていった」という。

 「SINCE FUKUSHIMA」について、「福島を文学に残していきたい、そんな意識をくみ取って訳してくださった」と和合さん。たとえば、収録作「米美術館、福島だけ貸し出し拒否 ベン・シャーン巡回展」は、放射能への不安が国内外に広まっていた時期に起きた事件への怒りや悲しみを正面からぶつけた作品だ。震災や福島に直結する言葉なしで構成された、普遍的な詩も収められているが、読者は福島を想起せずにはいられない。

 「詩の礫」発表以降、世界各地から招かれるようになった。朗読を披露すると、「地響きのようなリアクションや、勝ちどきを上げるような肉体的な反応も返ってきた。求めていたダイナミズムが感じられ、それが自分のパフォーマンスにも生きていった」という。

 海外では、17年にフランス語版「詩の礫」が、フランスの総合文化誌が主催するニュンク・レビュー・ポエトリー賞(外国語部門)を受賞している。さらに英語圏でも読者が広がりつつあることを今回のノミネートで実感した。「これで終わるのではなく、仕掛けていきたい。世界と向き合い、世界を相手にできるような創作をしていきたい」

 震災はふるさとの日常として不可避なテーマでもあったが、「震災の不条理と、戦後にシベリアで抑留死した祖父の不条理な死とが重なる。震災にこだわる原点とも言える」という。「そんな不条理が、ウクライナやガザやミャンマーでも繰り返されている。世界各地で起きていることを、きちんと受け止めて詩にしていく。そういう姿を示していくことが、現代詩を巡る閉塞(へいそく)感を打ち破ることにもなるかもしれない」

 8月に亡くなった新川和江さんから11年前に届いたはがきの言葉が忘れられない。「読者を置き去りになさらないでください」

 「宮沢賢治は教え子や農民にもわかるようにと詩を書いた。そんな風に、壁を作らずにやっていけたらいいですね」と和合さん。

 10月に発表した26冊目の詩集「LIFE」(青土社)は、易しい言葉で現代詩初心者も招き入れる。扉を開けて入っていくと、シュールレアリスムを追い続ける作者のたくらみが、奥にしっかり控えている。(藤崎昭子)=朝日新聞2024年11月13日掲載