第33回山本七平賞(PHP研究所主催)に、人類学者・磯野真穂さんの「コロナ禍と出会い直す 不要不急の人類学ノート」(柏書房)が選ばれた。朝日新聞の言論サイトRe:Ron(リロン)での連載を書籍化した一冊。13日に東京都内で開かれた贈呈式で磯野さんは、コロナ禍で抱いた違和感や本に込めた思いを語った。
受賞作は、フィールドワークや人類学の視点を通して、パンデミックが映した日本社会を考える内容。選考委員の長谷川眞理子さん(人類学者)は「日本の文化、そしてこれからを考えさせられるとても良い書物だと判断した」と評した。
磯野さんは受賞スピーチで、執筆のきっかけについて「コロナ禍の初期に連呼された『命か経済か』の二項対立、自粛を促すために使われ続けた『医療崩壊』というフレーズへの違和感にあった」と述べ、「医療を支えるためなら暮らしを犠牲にして当然という道徳が響き渡り、共に語る、食べる、歌い、踊るといった、病院制度よりもずっと古くから人類と共に存在し命を支えてきた営みが、いとも簡単に『不要不急』と名指されるようになった」と指摘した。
最後に、4年前に失業状態になった経験を振り返り、エールを送った。「先行きが見えず、自分の研究に意味を見いだせない多くの研究者がいると思う。そんな時こそ、信じてくれる人たちの声に耳を傾けてください。心血を注いだ研究の軌跡をあなた自身が『不要不急』とおとしめることのないよう探求を続け、その成果を臆せず発信し続けてください」(佐藤美鈴)=朝日新聞2024年11月20日掲載