- 『ぼっちのままで居場所を見つける 孤独許容社会へ』 河野真太郎著 ちくまプリマー新書 990円
- 『ネット怪談の民俗学』 廣田龍平著 ハヤカワ新書 1276円
孤立や孤独死は無条件にネガティヴとされる。しかし(1)は、近代以降の孤独の意味を重層的に腑(ふ)分けする。河野は『アナと雪の女王』や『ジェイン・エア』、ソローやウルフを論じつつ、ロンリネス(苦しみ、寂しさをもたらす否定的な孤独)とソリチュード(解放、創造性をもたらす肯定的な孤独)をまず区別する。他方で人々は、他人と絆を結び繫(つな)がるべきだ、という圧力にも苦しめられる。すると必要なのは、引きこもる自由と社会に出る自由、その両者(中庸の孤独)を確保しうることだ。そのためには――みもふたもないが――お金が必要であり、個人ベースの社会的分配が不可欠である。居場所を作り、社会を変える。そのためには逆説的に「ぼっち」の輝きが大切なのである。
(2)は労作である。一九九〇年代末から二〇二〇年代前半の、日本のネット怪談の大まかな見取り図が提示される。「きさらぎ駅」「ひとりかくれんぼ」「くねくね」「バックルーム」等、多くの人は聞き覚えがあるだろう。特定の作者がいるとは限らず、いつの間にか拡散し、共同構築されていく物語や画像。著者は民俗学的手法でそれらを採集した。映像技術環境の進歩の中では、現実とフェイクの区別が溶融し、国家や共同体への帰属意識も薄れていく。そうしたリアリティの変容の中から生成するネット怪談は、恐怖・不安・不穏さなどの原始的な感情によって、新たな民俗的共同性を構築しているのかもしれない。=朝日新聞2024年11月23日掲載