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崎山蒼志さん初エッセイ集「ふと、新世界と繋がって」インタビュー 「『あわい』を描く作品が好き」

崎山蒼志さん=北原千恵美撮影

「ちょっとどっちか分からない作品」が好き

――もともとは新潮社のPR誌「波」の連載だったそうですね。

 はい。高校を卒業するタイミングで「文章を書いてみませんか?」とお声がけいただきました。最初は「自分が?」と驚きましたけど、興味があったので「やってみたいです」とお答えして、2022年9月から2年間連載をしていました。今回、その連載が書籍化されます。こうやって取材の機会があると、自分の本が出るんだなと改めて思って。嬉しいし、ちょっと緊張しています。

――エッセイのアイデアはどのように集めたのですか? 特にお気に入りの作品は?

 日常で気になったことを頭の中にストックしておいて、「書くぞ」となったら、そのストックから思い出して書くスタイルです。書き始めたら一気に書いてしまいますね。

 お気に入りは「一房の月」。みかんの描写とか、朝まで飲んでいた思い出とか、上京してからの自分の生活感がいちばん凝縮されている気がしました。読み終わった後に、リアリティーがあったというか、ドキュメント性が高いと感じたというか……好きですね。

 立ったまま、螺旋になるように皮を剥いて、剥き終わった皮を棚に置き、みかんを半分に割って、また割って、一房、口に放り込みました。甘酸っぱくて美味しい。

 もう一房口に放り込むと、なんだか不思議な味がしました。ほんのり甘い。夜明けの澄んだ空気のように捉え所が無い味です。私は、帰りに見た月を思い出します。“こんな味だったんだ”って、それを飲み込みました。『ふと、新世界と繋がって』より

 「霧に包まれる街を見て」も好きです。改めて読んで見ると、考え方が自分っぽいなと思うんです。日々いろいろなものに触れて、その影響を受けやすいから、自分の思っていることや感じていることはブレがちですけど、ここに書かれていることは「自分だな」と思える。

 

 現象は、あなたたちは同じ人間でしょ、と突きつけてくる。だから好きです。同じ理由で、街を丸ごと飲み込んでしまう夕焼けや夜も好きです。自分は孤独ではない、ひとりではないような気がして。

 ライブもある種、現象であり、こちらの場合、私は現象を作り出す側となります。現象のような音楽をしたい。立ち会ってくれる皆様にとっての霧、もしくは夕焼けとなれるよう、これからも精進してゆきたいです。『ふと、新世界と繋がって』より

 音楽に対して「現象っぽい」と言っているところなんて、特にそう。自分がいつも目指しているところだなと思います。まぁ、普段は全然そんな話はしないんですけどね。自分は「この音楽、めっちゃ熱い」「ライブでくらって、今喋れないっす」ぐらいしか言っていないです(笑)。

――日常のエッセイの中で「月」や「霧」など自然のものが要素として入ってくるのが面白いなと思いました。その辺りは崎山さんも何か意識されているのですか?

 地元が田舎だからか、ベースにはあると思いますね。「自然と自分」「宇宙と自分」という視点は持っていると思います。

――『ふと、新世界と繋がって』というタイトルはご自身で考えたのですか?

 はい、そうです。もともと自分が、短編小説でもなんでも、「ちょっとどっちか分からない」作品が好きなんですね。生きているのか死んでいるのか分からないとか、結論が曖昧で白黒はっきりしないとか、「あわい」を描いている作品が好きなので、自分でエッセイを書くときもそういうものを書きたいなと。

 あくまでも自分の日常の範囲ではあるんですけど、そこから「あの扉の先はどうなっているのだろう」みたいなことを考えるのが好きだし、普段から結構そういう物の見方をしているので、このタイトルがしっくりくるかなと思いました。

執筆と音楽の共通点と違い

――執筆活動と音楽活動の共通点は感じますか?

 ばーっと書いたものの方がしっくりくるのは共通点かな。考え込むより、一気に作った方がいいものができる気がします。自分は短距離走が得意なんですけど、それと同じで瞬発力を発揮する方が向いているのでしょうね。

 執筆も音楽も何か明確なワードだったり、締切だったりがあると作りやすいです。多分、ふだんは意識がまったく一点に集中していなくて、散漫だからだと思うんですけどね。

――エッセイを書くときと詞を書くときに違いはありますか?

 文章を書いているときは「こうで、こうで、こうなって……」とある程度順序を考えながら書いていると思うんですけど、詞は全然繋がっていなくてもいいと思っています。音が間を埋めてくれるというか、余白があってもいいというか。

 詞を書いているときに音楽が浮かぶことは多いんですけど、逆に文章を書いて、それから音楽が生まれることも。例えば「一房の月」というレーベルだけ知っている曲があります。エッセイを書いた後に「あ、このワードいいな」と思って、曲を書いたんです。

――執筆と音楽が影響しあっているんですね。

 はい、そういう瞬間も多々あります。多分、書くことで思考がまとまるんでしょうね。それで文章を読んで「確かに自分はこういう考え方かも」と気づいて、曲にしてみる。自分にとって、執筆をすることと、音楽をつくることは相乗的な効果があるのかなと思っています。

曼荼羅、ハン・ガン、星新一

――崎山さんは幼い頃から音楽や本に親しんでいたのですか?

 そうですね。音楽は子どもの頃からずっと聞いていますが、本は中学生のときにたくさん読んだ記憶がありますね。最近もたくさん読むようにしているんですけど。

 作家の京極夏彦さんが「本は、買うだけでいい。読もうが読むまいが、いいと思った本を手元に置いておくだけで人生は豊かになる」と話していたことを知ったんですけど、それ、自分もちょっと前に思っていたことで! 本は買うだけでインスピレーションが湧くし、豊かになる感じがあるんですよね。

 最近も紀伊國屋書店をぶらぶらして、曼荼羅の本を買ったんです。

――え、曼荼羅の本ですか?

 はい。曼荼羅の図録本なんですけど、想像力がすごいなと思って。死期が近いとか、宗教的な意味合いとか、いろいろ背景はあるんだと思うんですけど、ここまで想像力が働くの格好いいと思って、ついつい買っちゃいました。

 X(旧Twitter)で絵に関する投稿がめっちゃ回ってきたからか、頭の片隅に「曼荼羅」があったんでしょうね。詩集だったり、読んでみたかった小説だったり、いろいろなジャンルのものを手に取ります。

――曼荼羅の本も面白そうですが、他に面白かった本や、影響を受けた本は?

 最近好きになった人は、ハン・ガンさん。ノーベル文学賞を受賞しましたが、自分は本屋で見かけて買いました。冷たいけれど、その中に温かさも感じられる、なんかドライアイスのような言葉を紡ぐ人ですよね。ものすごく感覚の鋭い詩で、こういう人がいる時点で、自分としては感化されます。

 影響を受けたというか、めっちゃ印象に残っているのは、星新一さんの『午後の恐竜』(新潮文庫)という本。中学1年のときに読みました。当時、そういう技術はなかったと思うんですけど、目の前にプロジェクションマッピングのように映像が浮かぶんですね。地球が生まれる瞬間から始まって、恐竜が来て、人間の歴史はあっという間に終わって……衝撃的な本でした。

 

――いつもどういう場面で本を読むのですか?

 SNSに疲れたら本を読み出すことが多いかも。面白いショート動画もたくさんありますけど、見すぎると「自分、何しているんだろう」という気持ちになるんですよね。目も疲れるし、情報量多いし。そんなときに本を読みます。

 自宅には漫画も雑誌もZINEも含めて本は結構ありますね。さっきお話した曼荼羅の本とか、ハン・ガンさんの本とか、大好きな『ウルトラヘヴン』(KADOKAWA)という漫画とか、お気に入りの本はいつも手に取れるようにしています。本はインスピレーションが湧くし、癒しにもなるから。

――改めて今回のエッセイはどんな人に読んでほしいですか?

 もう誰でも気軽に読んでもらえたら。景色がどんどん変わる場所……あ、特急列車の中で読むと面白いんじゃないですかね。さっき見たものとは全然違うものが目に飛び込んでくるように、さっき読んだものとは全然違う世界に飛んでいけるような作品なので。

――今後の執筆作品も楽しみです。

 オールノンフィクションのエッセイにも挑戦してみたいですね。いつどこで誰と会って、こんなこと言われたとか、「もはや日記じゃん」と思われるぐらいのものも面白いかもしれない。もし、100年後を生きる人がそれを読んだら、きっと謎だらけでしょうね。