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石川真衣さん「エースくんとヨバンさん 犬とアヒルの友情物語」インタビュー 亡きペットとの大切な日々

石川真衣さん

 同じ目的に向かってチームで支え合う。そんな仕事の仕方にあこがれがあった。でも選んだ職業は版画家。基本的に一人で進める仕事だった。自分なりのチームを作りたくて、多摩美術大大学院を出てペット可のマンションに移ると、1匹の犬を飼った。

 「エース」と名付けたゴールデンレトリバーは「おとなしくて協調性があり、いつも寄り添ってくれる子に育った」。朝は散歩に行こうと決まった時間に起こしにきて、悲しんでいると大きなあごを肩に乗せてくる。仕事中は足元に。作業が深夜までかかっても、ずっといてくれる。

 神奈川県鎌倉市内の戸建てに引っ越し、1人と1匹の暮らしに変化が訪れる。コロナ禍でできた時間で庭を整備したら「これなら飼えるかも」と気付いた。在学中に住んだアパートの近所で飼われていて、その賢さ、愛らしさにひかれたアヒルのことだ。2020年、思い切ってヒヨコを迎えた。名前は「ヨバン」。よく言えばマイペース、率直に言うと暴れん坊。“エース”の支えで頑張れ、“4番”がいることで家がにぎやかになる。チームができあがった。SNSに日常を投稿すると、話題にもなった。

 3年ほどでそんな日々が終わる。エースが1カ月の闘病の末、23年夏に10歳で逝ってしまったのだ。ペットロスは想像以上につらかった。「エースがいないなら私もいなくなりたいと本気で思った」

 1年が経つ頃、編集者から連絡があった。エースの闘病生活を記録した動画を見たと言い、「メモリアルブックのような本を作りませんか?」。作りたい。そう思えた。SNSに投稿してきた写真に加え、書き下ろした漫画、文章で構成した。本作りで写真を見返していると、楽しい日々が確かにあったのだと思い出された。「頭にこびりついた強烈な闘病の日々や失った苦しさが、楽しい思い出に置き換わっていきました」

 昨年11月に出版すると、やはり愛するペットを失った読者から多くの反響があった。「エースがいなくて今もすごくさみしい。でも、この本を通じてたくさんの人と大切な思い出を共有できた。それは本当に幸せです」。本を出して、前を向けるようになった。=朝日新聞2025年1月18日掲載