むんこ「夫の遺言が『同人誌描け』だったもので」 再び動く、「好き」という気持ち

マンガ同人誌即売会というイベントが本格的に始まって今年で50年。すっかり世の中に根を下ろしたこの世界に、子育てや介護での長い年月のブランクの後、復帰しようとする主人公の奮闘ぶりを描く作品だ。4コマがベースのコミカルな内容でテンポよく読めるが、やがてじわじわとドラマが心にしみてきて物語に引きこまれる。
題名どおり、夫の遺言に背中を押され即売会へ復帰を決めた主人公は、期日が迫る中猛然と原稿を描き始め、人生の止まった時間が再び動き始めるように、「好き」という気持ちだけで行動する自由さを取り戻していく。そんな母の意外な姿は、振り回されながらも応援する子どもたちや周囲の人たちを巻き込み、人間関係は新しい側面を見せていく。
私はこれが好きである――それをただまっすぐ表現するささやかな行動が本という形になって、一堂に会する空間が同人誌即売会だ。その前向きさが充満する空間は、たぶん何十年ぶりに来ても人を受け入れてくれるし、何十年たっても新しい人との出会いや懐かしい顔との再会をプレゼントしてくれる。そんな場の空気がよく伝わる展開が繰り広げられ、読後にじんわりと熱いものが心に残った。=朝日新聞2025年2月1日掲載