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児島青「本なら売るほど」 クセのある本好き、洒脱に描く

『本なら売るほど』(1) 児島青〈著〉 KADOKAWA 792円

 本好きなら一度はやってみたい職業のひとつが古本屋だろう。本作の舞台「十月堂(じゅうがつどう)」の若い店主もそう。脱サラして古本屋を始めた理由を「昔行きつけだった古本屋のオヤジを見て呑気(のんき)そうでいいなと思ったから」と言うが、もともと筋金入りの本好きだった。

 しかし、商売となると不良在庫の処分や面倒な客の相手もしなければならない。「いつまで続けられっかな」と自問しながらも本まみれの日々を過ごす彼の仕事ぶりと、クセのある本好きたちの姿を洒脱(しゃだつ)に描く連作集だ。

 亡くなった独居男性の蔵書買取で、その量と内容のすごさに圧倒される。限られた時間と予算ではすくい切れず悔しさを嚙(か)みしめながら、男性の人生に思いを馳(は)せるシーンは美しい。ほかにも買い取った本に挟まれていたものから始まるドラマ、壁全面に本棚を自作する男、「青木まりこ現象」など、本好きのツボを的確に突いてくる。

 言葉に頼りすぎず、表情や行動、隠喩イメージで人物の性格や感情を伝える技は巧み。本など読まない男子高校生が店に入ってリュックを前に持ち替えるさりげない描写が地味にいい。

 登場する本はほぼ実在で、つい読みたくなる。古本屋と同じく、本作もまた本の命を次代へとつないでいく。=朝日新聞2025年2月1日掲載