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はたこうしろうさんとおーなり由子さん夫妻の絵本づくり 体いっぱいで季節を感じて子どもの感性を育てる

子どもだから、どしゃぶりの雨を楽しめる

――どしゃぶりの中を飛び出して雨粒を受け止める、落ち葉を山盛りに集めて飛び込む、積もった雪の中にごろごろと寝転ぶ。子どもの頃、自然の中で無我夢中に遊んだ思い出を持つ人もいるだろう。全身で音や色や感覚を受け止めたあの体験を絵本の中で感じてほしいと、子どもが五感を使って季節を楽しむ絵本を描いた、はたこうしろうさんとおーなり由子さん夫妻。『ゆきのこえ』『どしゃぶり』(以上講談社)『おちば』(ほるぷ出版)は、夫妻が手掛けた四季のシリーズだ。

はたこうしろう(以下、はた) 先に作ったのは、『どしゃぶり』なんですが、息子が小さい頃、夏にどしゃぶりの雨が降ったとき、「雨で遊んでみたら、おもしろいで」って、一緒に外に出て遊んだことがあるんです。夏の暑い日にスコールのような雨が降るでしょう? 全身で水遊びするみたいで楽しい。そしたらそのうち、雨が降ると自分から外に行って、裸足になってバシャバシャ遊んだりするようになって(笑)。

 それで、小学5年生のときかな。またザーッと雨が降ってきた瞬間に、玄関のドアをバタンと開ける音がして、「あ、あいつ、今、外出たな」って。「5年生になってもまだ行くんや(笑)」って思ったあと、「ああ、もしかして、これで最後かもしれへん」と思って、動画を撮ったんです。それを講談社の編集さんが見て、「こういう絵本を作りませんか?」って、声をかけてくれたのがはじまりですね。

『どしゃぶり』(講談社)より

 それまで、息子がこういう遊びはしていても、絵本とは結びつきませんでした。スケッチを描き始めたもののうまく構成ができなくて。それで嫁さん(おーなりさん)に相談したんです。「ちょっと見てくれる?」って。そうしたらいろんなアイデアがどんどん出てきたので、これは文章を嫁さんに任せた方がうまくいくなと思って「やってくれる?」と言ったら、「いいよ」とすんなり引き受けてくれました。

おーなり由子(以下、おーなり) 自分の子どもの体験でもあるから、書きやすかったです。シーンを書き足し、文を入れて大まかな絵コンテを作って、リズムができたら、夫とやりとりして。

はた 僕の場合、いつも描きたいシーンのスケッチをたくさん描いて、それをどう並べていったら物語になるかなと考えていく作り方をするんです。そのときも、スケッチを全部嫁さんに見てもらって、使えるものと使えないものに分けていきました。間にこういうシーンを入れたら繋がるよとか、こういう絵が欲しいと文に合わせて絵を入れたり、アングルを変えてみたり、アイデアを詰めていきました。

おーなり こういう作り方は、夫婦ならではなのかもしれないです。文と絵が別々の方の場合、文章を書く人がいて、それに合わせて絵を描くという順番で作っていくことが多いと思うのですが、夫の場合は、描きたいシーンを優先して作っていく方が、絵がのびのび描けるんだと思って。シーンから文をふくらませていく方がうまくいくんやなってわかってからは、そういう作り方をすることにしました。

落ち葉の山にダイブ! ワイルドな遊びが楽しい絵本

はた そのあと、『おちば』を作ったときも、集めた落ち葉の山に飛び込むシーンを描きたかったというのがあります。だけど、そこにいたるまでの、はじめの部分、どんな道を歩いて、どんなシチュエーションにするかとか、細かいことを考えだしたら、まとまらなかったんです。

『おちば』(ほるぷ出版)より

おーなり ちょっとワイルドな遊びをさせたいから、子どもの年齢を少し上にするなど、設定を色々と考えすぎてしまうと、たちゆかなくなって(笑)。だけど、これはもうファンタジーで構わない、絵本の中で、この体験ができたら、それが一番いい!って、ふっきれたら、スッと冒頭の部分ができて、わーっと自由に文ができていったんです。はじめの序章から最後のシーンまで、落ち葉が歌っているような、全体が音楽みたいな、そんな絵本になった気がします。

はた 僕が考えると、どうしても最後は、また男の子が走って帰るようなシーンにしたくなる。僕だけでやると、男っぽくなりすぎるんですよ。嫁さんが文章を書いて構成してくれることで、詩的な感じになるんです。

おーなり 最後のシーンは光や色の余韻を残したいと思って、主人公の子が見上げている視点になりました。ここは男の子が最後に出てくるのと2パターンの絵で迷って、最後まで、どっちにする?と話していました。

アトリエにて、ラフを見ながら話すはたさん(右)とおーなりさん=日下淳子撮影

おーなり 落ち葉遊びが好きだった息子にも、「落ち葉に寝転んでるとき、どんな音がした?」って、聞いてみたりもして。「なんか、すっごいうるさいで」って(笑)。耳もとで、直に聞こえる面白さがあったみたい。音の記憶って、体に染み込んでいる。

はた 息子は中学生ぐらいまで、落ち葉を集めて飛び込んで遊んでいて。大きくなったら、友達は落ち葉を集めるのは手伝ってくれたけど、飛び込むのは、さすがに息子だけやったって(笑)。

おーなり ちいさいときは、汚れても、おもしろいからやりたい!って気持ちが勝つ……っていうのがいいですよね。

静かに降ってくる雪の声が「聞こえる」

――このシリーズ3冊は、どの本も主人公は子ども。子どもが季節ごとの変化や現象を発見し、好奇心のままに見たり触ったり動いていく様子を細やかに描いている。親は最後の方で「遠くから見守っていたんだな」とわかる程度にしか登場せず、途中で手を出したりはしない。昨年末に発売した『ゆきのこえ』では、木に降り積もった雪をどさっと落としたり、雪の中を寝転がって自分の跡をつけたり、子どもが感じるままにのびのびと活動する。雪は「くすす きしし きゅっ きゅっ」とまるで話しかけるように、男の子とたわむれる。

はた 『ゆきのこえ』は、雪がたくさん降った冬の日の体験を描きました。僕ら夫婦は大阪で育っていて、雪がほとんど降らないんですよ。東京に来たら、冬に雪が積もるのがうれしくて、その非日常な感じがすっごいおもしろかったんです。ある日、朝起きたら突然真っ白になっている、あの雪の新鮮な体験を描きたいなと思いました。

『ゆきのこえ』(講談社)より

おーなり 雪の絵本にしようと決めたとき、雪が降ると、しいんとして音が全部吸い込まれていく感じを書けないかなって思いました。自分の声が吸い込まれて「雪が、聞いている」ように感じたこと。すぐそばで聞こえる雪の音が、「雪が話している」ように感じたことがあって。それで、『ゆきのこえ』というタイトルにしました。

はた 雪が聞いているなんて、僕は考えたことなかったので、その発想はすごく新鮮でした。それまでは、雪は雪でしかなかったんです。聞いていると思ったら、雪も生きていて、自分とのコミュニケーションの中にいるんだなと感じられました。

おーなり 雪に耳を澄ますページは、何パターンか絵があったんです。はじめは、うしろ向きの手袋のアップでした。小さくても六角形の結晶になる雪が手袋に引っかかっているとおもしろいなとか、ラフのときに話していたんですが、主人公の感じていることなのに顔がないと感情移入しにくいから、顔のある絵に変更。目は開くかつぶるか悩んで、別版で描いてもらって。どっちがいいかなあと比べて話しながら、決まっていきました。大事なシーンなので、いくつも描いてくれました。

はた このシーンが、この絵本の肝と思っていました。

『ゆきのこえ』(講談社)より

おーなり 絵を見て「ここは違うな」と思っても、他の作家さんだったら伝えづらい部分があると思うんですが、夫婦だから言いたいこと言って(笑)。文と絵が分かれているようで、一緒にやっている感覚があります。

はた 楽なんですよ、2人でやった方が忌憚のない意見が聞けるから。平気で描き直してと言われるけれど(笑)、その方が良くなる。

何枚も描き直したラフスケッチ=日下淳子撮影

おーなり せっかく描き直してもらったのに、やっぱりあかんかったなというときもある(笑)。

はた そう、一緒に見て、やっぱりこれでもなかったなとか言いあったりね。絵を描いてみないとわからない部分もある。編集さんという第三者にも見てもらって、確認もしつつ進めています。そういえば、これはちょっとした部分だけど、最後のお母さんの服の色も、言われて直しましたね(笑)。

おーなり 最初、お母さんが全身ピンク色のコートにピンクの長靴だったんですよ。わたしが言っても、はたさんは「いいねん」って(笑)。でも編集さんにも、いいシーンなのにピンク色が気になるって言われてね。ほらほらって。

はた 2人に言われたら、直しますよね。その場で消して、上から色を塗って。でも、直してよかった(笑)。打ち合わせで編集さんと3人で話すんですけど、そうすると早いんですよ。ラフや下絵の段階で、「ここ引っかかるねんけど」って言われれば、その場で僕が絵を描き直します。

おーなり わたしも文をその場で直して。1日で下絵がどんどん変わっていったり、色校正の後に文章が変わったりすることもしょっちゅうで、最後の最後まで正解を探して、しつこくさわっています(笑)。

子どもが五感全部を使うことで感じ取れる体験を

おーなり 昔、NHKで『とびだせ たんけんたい』っていう子どものドキュメンタリー番組があったんですが、雨の回があって、どしゃぶりの中で子どもたちが遊んでいるのが生き生きして楽しそうで、すごく心に残ったんです。これは子どものときにしておきたい体験やなあ、ずぶぬれで楽しかったこと、わたしもあるなあと思いました。雨も落ち葉も雪も、おもしろいことがいっぱい。絵本を読んだとき、やったことある子には、「そうそう、楽しかった」という追体験になって、やったことない子には、現実の世界で色々とさわったり、耳を澄ませたくなったりするような、そんな絵本になっていたら、うれしい。

はた 僕も4歳ぐらいのとき、親戚の子ども6人とおばちゃんにおにぎり作ってもらって遊びに行ったことがあって、途中どしゃぶりにあったんです。神社まで走ったけど、みんなびちょびちょ、おにぎりはぐちょぐちょ。でも全員すっごく楽しくて、ゲラゲラ笑いながらぐちょぐちょのおにぎりを食べました。その楽しかった記憶が強くて、こういうのって宝物になるって思うから、絵本にしたい。

おーなり 音に耳を澄ますなど、五感をいっぱい使うことは、子どもたちの方が得意だから、きっと、いろんなことを感じてくれる気がします。本をきっかけに現実世界を楽しく感じるというか、生きているところが楽しいところなんだ、って思えるような絵本になっていたらいいなあと思います。