
ISBN: 9784120058752
発売⽇: 2025/01/22
サイズ: 2.5×19.1cm/104p
「楽園の楽園」 [著]伊坂幸太郎
伊坂幸太郎の愛読者なので、書評の仕事を離れて期待してページをめくった。絵もたくさん入っているし、ページ数も少ないので、絵本というほどではないけれど、いままでとはちょっと違った感じがある。わくわく。
世界にさまざまな厄災が襲いかかり、終末の様相を呈する。それがAIの暴走による? え、なにそれ。ふつうじゃん。作中、登場人物の一人である三瑚嬢(さんごじょう)が「人工知能の暴走なんて、フィクションだったら、ありきたりすぎて、誰も手を出さないよ」と言う。そうだよな。あ、三瑚嬢というのは、この小説の登場人物が西遊記をもじって名づけられているからで、彼女は「沙悟浄」のもじり。ちなみに暴走したとされるAIは「天軸」。
帯には「選ばれし三人は世界を救う旅に出る」とある。まあ、そうなんだけどね、そこから先は読んでない人には言えないな。ちらっとにおわせておくと、終わり近く、自分たちの勘違いに気づいた三瑚嬢の発言。「終わるのは、ヒトの世界だよ。ヒト以外にとっての世界は終わらない」。タイトルの「楽園の楽園」が何を意味するのか、私にはよく分からない。しかし、それは「人間の楽園」ではない。楽園にとって人間は異物にすぎない。だから、人間は楽園を追放された。
見ていた影絵のスクリーンがはらっと落とされる。そこにはいままで見えていたキツネや猫の姿ではなく、組み合わされた手が現れる。この小説はそんな感じである。
あちこちに仕掛けがあるので、読み終えた後でも「ふーむ」と見返すことになる。私としては井伏鱒二の「山椒魚」と思われる小説が扱われているのが気になっている。山椒魚に閉じ込められて一生を終えることになった蛙(かえる)の最後の言葉を伊坂は書いていないが、蛙はこう言ったのだ。「今でもべつにお前のことをおこってはいないんだ」。これが「楽園の楽園」のラストに影を落としている。ふーむ。
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いさか・こうたろう 1971年生まれ。著書に『ゴールデンスランバー』『マリアビートル』『逆ソクラテス』など。