
ISBN: 9784865898064
発売⽇: 2024/10/25
サイズ: 1.2×17.3cm/208p

ISBN: 9784087817607
発売⽇: 2024/10/25
サイズ: 13.1×18.8cm/224p
「ユーリー・ノルシュテイン 文学と戦争を語る」 [聞き手]才谷遼ほか[通訳]児島宏子/「沸騰大陸」 [著]三浦英之
大事件ほど世の中の論調は画一的にみえる。たとえばウクライナの戦争に関してはロシアが絶対悪。一般人には詳細を確かめがたく、それは多数派の常識となり、ウクライナへの資金や武器などの援助継続へと繫(つな)がる。
「全てがお金の概念に取って代わってしまった」「誰も真実を見たくないのだ」。ロシアのアニメーション作家は、日本人によるインタビューをまとめた『ユーリー・ノルシュテイン 文学と戦争を語る』の中でそう嘆く。他国が利己的理由で資金や兵器を送り戦争が継続した結果、「死ぬのはウクライナ人」「全ての国が反ロシアなのは、彼らがロシアの弱体化を望んでいるから」。やわらかなアニメの筆致とは対照的な彼の見解の妥当性を含め、真実のすべてを私たちが知ることはあるまい。だからこそ文化が大切なのだと彼は説く。エウリピデス、ダ・ヴィンチ、トルストイ、プーシキン、ゴッホ、北斎……。数千年をかけ育まれた文化芸術を通して我々は自他を知る。人間の無知が人々の目を自分の利益だけに向けさせ、戦争で他人を殺す権利があると思わせているのだと。
それはアフリカ大陸の名もなき人々の壮絶な物語をまとめた『沸騰大陸』の各話にも繫がる。ビジネスの成功を祈願し生きた子どもを生贄(いけにえ)として埋めるウガンダの風習。狩りを楽しみに来る欧米の客用に養殖される南アフリカのライオン。隣人家族7人をナタで惨殺し、強姦(ごうかん)目的で唯一生かした娘の近隣に今も住むルワンダの加害者の「皆がやっていたから仕方なかった」という言い分。強制自爆テロのために少女たちを誘拐するナイジェリアの実行犯グループへの対策として多額の予算という甘い汁を得る軍や官僚たち……。いかに凄惨(せいさん)な話も、利己性という点で私たちの誰もに密接に繫がっている。
公には報じられない、市井の観点による現実を知ることは世界との対峙(たいじ)の仕方を拡(ひろ)げてくれる。
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Yuriy Borisovich Norshteyn ロシアのアニメ作家▽みうら・ひでゆき 1974年生まれ。朝日新聞記者・ルポライター。