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阿部暁子『カフネ』 支え合い、みんな生きている

阿部暁子『カフネ』あらすじ
法務局に勤める野宮薫子は、溺愛していた弟が急死して悲嘆にくれていた。弟が遺した遺言書から弟の元恋人・小野寺せつなに会い、やがて彼女が勤める家事代行サービス会社「カフネ」の活動を手伝うことに。弟を亡くした薫子と弟の元恋人せつな。食べることを通じて、二人の距離は次第に縮まっていく。
阿部暁子『カフネ』読みどころ
互いに悪態をつきながら、なくてはならない関係になっていく薫子とせつなのシスターフッドが笑いと涙を誘います。現代社会のセーフティーネットからこぼれおちる寸前の家族をボランティアとして回りながら、支え、支えられて生きる人のつながりの温かさを再確認させてくれる作品です。凄腕料理人のせつなが作る料理はどれも食欲をそそられるものばかりで「お料理小説」としても活用できます。
阿部暁子『カフネ』このフレーズに泣いた!
今、私はあの人を助けたのではなくて、助けてもらったのだ。――阿部暁子『カフネ』
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山口未桜『禁忌の子』 生命倫理を問う医療ミステリー

山口未桜『禁忌の子』あらすじ
救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。自らのルーツをたどった先にある、思いもよらぬ真相とは――。過去と現在が交錯する、医療×本格ミステリ! 第34回鮎川哲也賞受賞作。
山口未桜『禁忌の子』読みどころ
医療現場の臨場感を説得力をもって描くのはもちろん、現実離れした物語の冒頭を、現実の物語に違和感なく落とし込んでいくのは現役医師の作者だからできる技。背景に生殖医療の最先端や生命倫理の問題を浮かび上がらせ、社会が積み残した課題を問う社会派医療ミステリーにもなっています。やがて第二、第三の事件が起き、犯人は意外な人物…というミステリーのお約束まで、きれいにまとめています。
山口未桜『禁忌の子』このフレーズに膝パーカッション!
阪神ファンに悪い奴はいない、か。それならばもう少し大阪の治安は良いはずだ。――山口美桜『禁忌の子』
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一穂ミチ『恋とか愛とかやさしさなら』 罪とは?赦すとは?

一穂ミチ『恋とか愛とかやさしさなら』あらすじ
プロポーズの翌日、恋人が盗撮で捕まった。カメラマンの新夏は啓久と交際5年。東京駅の前でプロポーズしてくれた翌日、啓久が通勤中に女子高生を盗撮したことで、ふたりの関係は一変する。「二度としない」と誓う啓久とやり直せるか、葛藤する新夏。啓久が“出来心”で犯した罪は周囲の人々を巻き込み、思わぬ波紋を巻き起こしていく。信じるとは、許すとは、愛するとは。男と女の欲望のブラックボックスに迫る、著者新境地となる恋愛小説。
一穂ミチ『恋とか愛とかやさしさなら』読みどころ
昨年の直木賞受賞作『ツミデミック』に続き、人間の「罪」とは何かを見つめた作品。犯罪として有罪にはならずとも、罪深い過ちを犯した恋人を許していいのか、どうすれば自分は許せるのか。揺れ動く新夏の心の軌道に深く切り込んで描写する作者の表現力に目を見張ります。連作2編目は一転して、啓久を主人公に、思いがけない出会いが。罪の糾弾に終わらず「救い」と「赦し」を考える小説にもなっています。
一穂ミチ『恋とか愛とかやさしさなら』このフレーズに鳥肌!
いつからかわからないけれど、「大嫌い」を上回る最上級の拒絶表現は「生理的に無理」ということになっている(と思う)。――一穂ミチ『恋とか愛とかやさしさなら』
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恩田陸『spring』 天才と同じ時代を共有する幸福

恩田陸『spring』あらすじ
自らの名に無数の季節を抱く無二の舞踊家にして振付家の萬春(よろず・はる)。少年は八歳でバレエに出会い、十五歳で海を渡った。同時代に巡り合う、踊る者 作る者 見る者 奏でる者―― それぞれの情熱がぶつかりあい、交錯する中で彼の肖像が浮かび上がっていく。彼は求める。舞台の神を。憎しみと錯覚するほどに。一人の天才をめぐる傑作長編小説。
恩田陸『spring』読みどころ
萬春の類いまれな才能がバレエと出会い、海を渡り、世界のトップに上り詰めていく様子を、同世代のダンサーや作曲家、親類など関わった人による証言の形で造形していきます。やがて才能あふれる一人の男性(現実に例えれば大谷翔平選手のような)の輪郭が徐々に明らかになり、その世界的な活躍をリアルタイムで目撃しているような感覚になります。本屋大賞2回受賞のベテラン作家は、音楽、肉体を取り巻く描写も優美です。
恩田陸『spring』このフレーズにほれぼれ!
運命なんかでもない。そう、たまたま居合わせたのだ。――恩田陸『spring』
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宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』 ラストの大冒険にハラハラ

宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』あらすじ
成瀬の人生は、今日も誰かと交差する。「ゼゼカラ」ファンの小学生、娘の受験を見守る父、近所のクレーマー主婦、観光大使になるべく育った女子大生……。個性豊かな面々が新たに成瀬あかり史に名を刻む中、幼馴染の島崎が故郷へ帰ると、成瀬が書置きを残して失踪しており……!? 読み応え、ますますパワーアップの全5篇!
宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』読みどころ
昨年の本屋大賞受賞作『成瀬は天下を取りにいく』の続編で、シリーズ2作で計100万部を突破した人気作。周囲に安易に迎合せず、ひたすら地元・滋賀と大切な友人を思い続けて我が道を貫く成瀬あかりの愛すべきキャラクターは今作も健在です。前作同様、成瀬やその周囲のほのぼのとした日常が連作短編でつづられていきますが、ラストで成瀬は大学生に成長し、ちょっとした冒険に出てハラハラさせてくれます。3作目への期待を高めるラストです。
宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』このフレーズにほっこり!
「わたしはびわ湖大津を世界に発信していくつもりだ」――宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』
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青山美智子『人魚が逃げた』 老若男女が見つめる人生、今回は

青山美智子『人魚が逃げた』あらすじ
ある3月の週末、SNS上で「人魚が逃げた」という言葉がトレンド入りした。どうやら「王子」と名乗る謎の青年が銀座の街をさまよい歩き、「僕の人魚が、いなくなってしまって……逃げたんだ。この場所に」と語っているらしい。彼の不可解な言動に、人々はだんだん興味を持ち始め――。そしてその「人魚騒動」の裏では、5人の男女が「人生の節目」を迎えていた。銀座を訪れた5人を待ち受ける意外な運命とは。
青山美智子『人魚が逃げた』読みどころ
様々な悩みを抱えた老若男女が、現実から離れた共通の何かに触れることで、生き方や人生観を見直していく連作短編は作者お得意のスタイル。今作の触媒要素は「人魚を探す王子様」とかなりファンタジックに。多くの人にほんわかと心温まる共感を呼び起こす読後感は今作も存分に味わえます。今回で5年連続5回目の本屋大賞候補となり、海外でも人気を呼んだ作者が、読者と向き合っていく決意も垣間見えます。
青山美智子『人魚が逃げた』このフレーズに納得!
刷られるのが百万部であろうとたった一部であろうと、結局、一冊の本を通して作家と読者は一対一の会話をしているのだ。――青山美智子『人魚が逃げた』
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