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本屋大賞、2025年の栄冠は誰に? 男性作家のノミネート4作は力作が目白押し【直前レビュー】

【女性作家編はこちら】

>本屋大賞、2025年の栄冠は誰に? 女性作家のノミネート6作は、安定感ある顔ぶれ

早見和真『アルプス席の母』 母たちの青春群像

早見和真『アルプス席の母』あらすじ

 秋山菜々子は、神奈川で看護師をしながら一人息子の航太郎を育てていた。湘南のシニアリーグで活躍する航太郎には関東一円からスカウトが来ていたが、選び取ったのはとある大阪の新興校だった。声のかからなかった甲子園常連校を倒すことを夢見て。息子とともに、菜々子もまた大阪に拠点を移すことを決意する。不慣れな土地での暮らし、厳しい父母会の掟、激痩せしていく息子。果たしてふたりの夢は叶うのか!?

早見和真『アルプス席の母』読みどころ

 作者デビュー作『ひゃくはち』以来となる高校野球もの。親同士の派閥争いや監督の全国スカウト活動を支える資金の出所など、陰の部分にも踏み込んだ生々しい描写は元球児ならでは。球児たちの快進撃に心躍るスポーツ青春小説でもあると同時に、シングルマザーの主人公が見知らぬ大阪で人間関係や習慣の違いに戸惑いながら、我が子やチームメートの成長を見守る姿は、母親たちの青春群像小説でもあります。

早見和真『アルプス席の母』このフレーズに共感!

「結局、ガキのままなんだよね。私たちも含めて」――早見和真『アルプス席の母』

野崎まど『小説』 「読む」ことがつなぐ友情

野崎まど『小説』あらすじ

 5歳で読んだ『走れメロス』をきっかけに、内海集司の人生は小説にささげられることになった。そこには望むもののすべてがあった。12歳になると、内海集司は小説の魅力を共有できる生涯の友・外崎真と出会う。2人は小説家が住んでいるというモジャ屋敷に潜り込む。そこでは好きなだけ本を読んでいても怒られることはなく、小説家・髭先生は2人の小説世界をさらに豊かにしていく。しかし、その屋敷にはある秘密があった。

野崎まど『小説』読みどころ

 幼い頃、気難しい親族が主の古めかしい書斎に迷い込み、山のような古い書物を見上げ、その先の宇宙を空想した記憶はありませんか。モジャ屋敷に山と積まれた書物。その先にある宇宙が、髭先生の案内で、少年2人の心の中に果てしなく広がっていきます。やがて小説を読むことで外崎の人生を支えていく内海。小説を通じて人生を共にする2人の友情に胸打たれます。小説家としての作者の覚悟も読み取れる、スケールの大きい作品です。

野崎まど『小説』このフレーズに震える!

心を打つこの世の全ての、その先に小説がある。――野崎まど『小説』

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金子玲介『死んだ山田と教室』 いつまでも不器用な青春

金子玲介『死んだ山田と教室』あらすじ

 山田が死んだ。飲酒運転の車に轢かれたらしい。山田は勉強が出来て、面白くて、誰にでも優しい、2年E組の人気者だった。2学期初日の教室。悲しみに沈むクラスを元気づけようと担任の花浦が席替えを提案したタイミングで教室のスピーカーから山田の声が聞こえてきた。山田の魂はどうやらスピーカーに憑依してしまったらしい。〈俺、2年E組が大好きなんで〉。声だけになった山田と、2Eの仲間たちの不思議な日々がはじまった。

金子玲介『死んだ山田と教室』読みどころ

 10代特有のあり余るエネルギーが迷走、暴走している男子校の教室。作者の持ち味でもある絶妙な会話のリズムに載せて「男子校あるある」の生態が面白おかしく描かれます。誰もが永遠に続くことを願った輝かしい青春の瞬間も、やがて時は流れ、人は離れていき、戻らない過去の追憶となっていきますが、そこから離れることができない不器用な仲間たちの友情の物語でもあります。

金子玲介『死んだ山田と教室』このフレーズに爆笑!

男子高校生は基本的に、バカしかいなかった。――金子玲介『死んだ山田と教室』

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朝井リョウ『生殖記』 多様性が揺らぐ今だからこそ

朝井リョウ『生殖記』あらすじ

 とある家電メーカー総務部勤務の尚成は、同僚と2個体で新宿の量販店に来ています。
 体組成計を買うため――ではなく、寿命を効率よく消費するために。
 この本は、そんなヒトのオス個体に宿る◯◯目線の、おそらく誰も読んだことのない文字列の集積です。

朝井リョウ『生殖記』読みどころ

 『正欲』以来、3年半ぶりの長編となった話題作。タイトルから分かる通り、前作と陸続きのテーマに正面から取り組んでいます。前作ほど登場人物は多くなく、ストーリーは比較的シンプルな構成になっていますが、注目は何と言っても物語を展開していく「語り手」の存在。新聞連載時とは状況が様変わりした今だからこそ手に取って、改めて「語り手」の問いかけを受け止めて考えたくなる作品です。

朝井リョウ『生殖記』このフレーズに考え込む

「なんかずっと、自分は挿入する側のほうがしっくりくるんじゃないかって思ってたりするんだよね」――朝井リョウ『生殖記』

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 好書好日編集部がお送りするポッドキャスト「本好きの昼休み」で、本屋大賞候補作のレビューを音声でお聴きいただけます。