1. HOME
  2. インタビュー
  3. 震災を体験、その先に残す言葉は 被災後の創作めぐり詩人・歌人ら座談会

震災を体験、その先に残す言葉は 被災後の創作めぐり詩人・歌人ら座談会

(左から)詩人・季村敏夫さん、歌人・高木佳子さん、俳人・渡辺誠一郎さん、詩人・作家の小池昌代さん=3月22日、東京・駒場の日本近代文学館

 東京・駒場の日本近代文学館で3月22日、震災体験と詩歌表現を巡る座談会が開かれた。詩人・作家の小池昌代さん(同館副理事長)の司会で、いずれも大震災経験者の詩人・季村敏夫さん、歌人・高木佳子さん、俳人・渡辺誠一郎さんが被災後、表現にどう取り組み、創作への心構えがどう変わったか語り合った。

 同館では東日本大震災翌々年の2013年から俳句、短歌、詩の作者が肉筆で書いた震災作品を企画展示してきた。今年の「海、山、人、黙(もだ)す――震災と言葉」展(終了)の編集を小池さんが務め、その関連イベントとして座談会が行われた。

 1995年の阪神大震災を神戸で迎えた季村さんは、東日本大震災後に東北を回り、子どもたちと野染(のぞめ)を通して交流してきた。郷土料理をふるまってくれた被災女性の、その後の孤独死を書いた近作「最上階」を披露し、ひとくくりに出来ない悲しみのかたちを来場者に印象づけた。

 福島県いわき市の高木さんは、原発事故の影響をおそれて窓に目張りをするような日々、こんな気持ちで作歌していた。「私は歌人。書き残すことが生きている証し。(死後に)こんな下手なものを作っていたのかと言われたくない。そこに発表欲も承認欲求もなかった」

 宮城県塩釜市在住の渡辺さんは、「手を振れば千の手が振る桜の夜」などの自句を朗読した。震災に伴う原発事故で“季語は凌辱された”とした仙台の歌人・佐藤通雅さんの言葉を引きつつ、「死者と生者のつながりが、『桜』を通じて、あってほしい。津波に引きずりこまれた桜が、日本海溝のどこかで咲いているのでは」と語った。

 季語のイメージさえ一変させる災厄は、今後も起こりうる。季村さんは「人と人との対話の基本である言葉への陵辱は、もっとひどくなる。人として、根性入れてやっていかなければならない」、高木さんは「日常が豊かで健やかであることが、お祝い。それを続けさせること以外に価値はない。3月になるたびにそれを思い直す」と語った。

 渡辺さんは、ある島の漁師の言葉を紹介した。「海がおれたちの大切な財産を奪った。これからはおれたちが海から奪い取る番」――。「こういう言葉にはかなわない。そこから自分の表現を考えていきたい」(藤崎昭子)=朝日新聞2025年4月2日掲載