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「白人になれない白人たち」書評 序列と差別意識 赤裸々に暴く

評者: 中澤達哉 / 朝⽇新聞掲載:2025年04月05日
白人になれない白人たち;中欧の反リベラリズムとレイシズム 著者:アイヴァン・カルマー 出版社:彩流社 ジャンル:歴史・地理

ISBN: 9784779130205
発売⽇: 2025/01/21
サイズ: 2.1×0.3cm/396p

「白人になれない白人たち」 [著]アイヴァン・カルマー

 かつて日本人を「名誉白人」と呼んだ国があった。アパルトヘイト(人種隔離)政策を掲げた1960年代の南アフリカ共和国は、経済的理由から日本人を名誉白人として扱い、差別の対象から外した。この特例的優遇に当時、違和感をもった人は少なくなかった。有色人種に対する明白な差別が存在することを、特例という事態が見事に証明してしまったからだ。
 対して本書は、「白人」たちの意識の深層に光をあてる。「白人になれない白人」とはなんと不穏な表現だろう。対象は、旧共産圏の東欧諸国の中でも現在中欧と呼ばれるポーランド、ハンガリー、チェコ、スロヴァキア。ハンガリーのオルバン首相はかねて、非リベラルな民主主義を唱えては欧州連合(EU)の施策に反発し、プーチンやトランプの強権政治に共鳴していた。本書は、この手の政治家が国民の支持を得る背景には、白人の間での序列と、これに起因する二つの素朴な差別感情があるという。①西欧の白人と同じ特権を手に入れたいという衝動から、有色人種との連帯を屈辱と感じる中欧側の非リベラルな人種差別、②こうした中欧の追随を劣等の証左と捉える西欧側の人種差別、である。
 本書の慧眼(けいがん)はここからだ。資本主義が①の夢を実現することは永遠にないという。なぜなら資本主義は、2004年のEUの東方拡大にみるように、安い労働力を提供し、商品を確実に消費してくれる市場を求め続ける。西欧は後背地の中欧に、冷戦に敗れた「東欧」という永久に従属的な市場でいてほしい。新自由主義の進展により西欧の野心に気づいた中欧は2000年代以降、西欧に反旗を翻すことになった。ウクライナ難民は保護するが、シリア難民は拒絶するという姿勢もその表れだ。
 「白人」間の序列と差別意識を赤裸々に暴く中欧ユダヤ系出自の筆者。名誉白人問題も無縁ではない。白人至上主義のあらゆる変種に細心の注意を払いたい。
    ◇
Ivan Kalmar 1948年、プラハ生まれ。文化人類学者、トロント大学教授。ユダヤ系で現在のスロヴァキアとチェコで育つ。