1. HOME
  2. 書評
  3. 「カフカ俳句」書評 自由律俳句として味わうと

「カフカ俳句」書評 自由律俳句として味わうと

評者: 望月京 / 朝⽇新聞掲載:2025年04月12日
カフカ俳句 (単行本) 著者:フランツ・カフカ 出版社:中央公論新社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784120058547
発売⽇: 2024/11/20
サイズ: 2.5×19.1cm/208p

「カフカ俳句」 [著]フランツ・カフカ

 フランツ・カフカ(1883~1924)は未完小説や断片を多く遺(のこ)した。そこからさらに短文を抜粋し、自由律俳句としてより深く味わおうというのが編者の趣旨だ。
 見開きの右頁(ページ)には大きな活字で、手紙や日記、小説、創作ノートなどから選ばれた「カフカ俳句」。多くは1行、長くて3行。左頁には当時のカフカの状況、編者の解釈、連想される他者の文章(ゲーテ、ニーチェ、啄木、漱石……)などが自由な分量で綴(つづ)られる。
 選出された「80句」からは人間関係や日常に悩むカフカの「生への不安」が感じられるが、背景から分離されているためかネガティブな気分にはならない。読者の想像力次第で世界が果てしなく広がってゆく感覚はまさに俳句。カフカに感化された作曲家が多いのは、凝縮された言葉から様々な想像を醸成する言外の余地ゆえかと頷(うなず)ける。
 同時に、俳人九堂夜想との巻末対談で言及されるが、連想の拡(ひろ)がりから気付かされるのは古今東西を超えた「カフカ性」の遍在だ。「生への不安」の普遍こそがカフカ不朽の所以(ゆえん)なのか。