松井玲奈さん「人前で話すとき原稿は用意しない。その瞬間に感じたことを言葉にのせたい」(第2回)

【今回のテーマ】「出会い」と「別れ」を言い表す〝わたしだけの言葉″ありませんか?
新番組「わたしの日々が、言葉になるまで」は、感情をあらわす言葉を多彩なゲストとともに探していく日常言語化バラエティー番組です。松井さんは小説を書いていらっしゃいますが、今回、番組に参加してみてどんな気づきがありましたか。
「いつもは気になった言葉や表現に出会っても、とくにメモしたりしないんです。良い表現であれば頭の中に残ってるはず、と信じて。でも、今回一緒に出演した小説家の朝井リョウさんは、番組で紹介された文章を本当に細かいところまでよく見ていらっしゃいました。ああ、私ももっと神経をとがらせて細部にわたるまで考え尽くして文章を書かないと、とすごく刺激を受けました。
シンガーソングライターのヒグチアイさんが、実体験を基に『思い出の引き出しの隅のほこりを舐めるようにして歌詞を書いている』とお話されていたのも印象的でした。シンガーソングライターは自分の物語を言葉にして自分の口で歌って発信している。一方、小説家は架空の物語を発信していて、それを決して自分の口からは発しないわけで……。同じ言葉を扱う二つの仕事の違いが面白く感じました」
最初のテーマは「慣れ親しんだ地元を離れる時」でしたね。ご自身は2008年にデビューされ、17歳のときに愛知県・豊橋から上京されました。
「それまで東京でのお仕事の時はホテルに泊まっていたのが、マンションに変わるというだけの、ぬるっとした上京で(笑)。自分で部屋を探したり、地元の友だちと駅のホームで泣きながら別れたり、といった経験がなかったので、〈ザ・上京〉みたいなシチュエーションにはいまだに憧れがあります」
番組では、上京ソングとしてOfficial髭男ismの「黄色い車」と、藤井風の「さよならべいべ」の歌詞が紹介されました。
「『さよならべいべ』では方言が使われていましたね。私もいつか小説で方言を使ってみたいです。(地元の方言である)三河弁は『~してみりん』『~だら』など、ちょっと響きがかわいくなっちゃうので、そこが悩みどころ。三河弁が飛び交う『負けヒロインが多すぎる!』というライトノベルがあるので、読んで勉強したいです」
番組後半では、「あの子ともっと仲良くなるための言葉」というお題でみんなでセリフを出し合いましたね。WEST.の桐山照史さんは「コンビニ行くけど何かいりますか?」、ヒグチさんは「タコのオスとメスの見分け方知ってますか?」、朝井さんは「空気を明るくしてくれてありがたかったです」、劇団ひとりさんは「昨日、品川にいませんでした?」とそれぞれ、次のやりとりが生まれそうな言葉でした。松井さんの出した「最近買ってよかったものありますか?」という声かけも、相手が負担なく答えられ、なるほどな~と思いました。
「撮影現場は、〈出会いと別れ〉というほど大げさなものではないけれど、人の出入りが多く、待ち時間もよくあるんです。そんなときに、こういうちょっとした話題を振ることで、『あ、この人、自分と喋ってもいいと思ってる人なんだ』って感じてもらえるかな、と思って。ただ、自分も相手もお仕事をしに来ている場所ではあるので、お互いすぐに仕事モードに戻れるくらいの、当たり障りのない会話がベストな気がします」
お仕事で出会った方で、この人ともっと仲良くなりたいと思ったときはどうするんですか? 大人って友達を作るのがなかなか難しいですよね。
「そういう時は自分から声をかけて『今度、お茶しに行きませんか』と仕事場じゃないところでコミュニケーションを持とうとします。内田理央ちゃんとはドラマの共演がきっかけでもう長いこと仲良くさせてもらっています。もともとキャストみんなが仲がいい和気あいあいとした現場だったのですが、撮影が終わるとやはりみんな次の仕事へ向かうので交流はぐっと減るんですよね。そこを理央ちゃんが『ごはん行こうよ』と誘ってくれて。ありがたかったです」
やっぱり勇気を出して声を掛けてみるって大切ですね。
「1、2回会っただけではわからないっていうのもコミュニケーションの面白いところだと思います。何回か会って言葉を交わし合ううちに、その人の核になる部分を知って、もっとこの人のことを知りたい、仲良くなりたい、と思えてくる……。番組でお話したんですが、あるお友達と遊んだあとに『大人になって、こんなに気が合う子と出会えるなんて! 運命かも』ってメールをもらったんです。その言葉がすごく嬉しくって。だから私も、あなたと会えて楽しい!嬉しい!という気持ちは言葉にしてストレートに伝えるようにしています」
お仕事柄、大勢の前でスピーチや挨拶など発言する機会が多いと思いますが、いつもどんな準備をしていますか。
「人前で話すときに原稿を書かないようにしています。というのも、原稿を用意しているとそれ通りに言えなかったときにパニックになってしまうだろうな、と思って。それに、やっぱりその瞬間に感じたことを言葉にのせる方が、用意していたものよりも人の心に届く気がして。自分の言葉と、届ける相手を信じて、原稿は作りたくないなと思っています」
すてきですね。今回のテーマ「出会いと別れ」で、一番印象に残ったことは。
「桐山さんが、『今日みんなで〈仲良くなれる言葉〉を考えたように、どんなに明るかったり、コミュニケーションをとるのが上手な人でも、最初の一言目はいろいろ考えて出した言葉だと思うから、声をかけられた方もその最初の一歩の勇気を感じ取って優しくしてほしいし、優しくしていきたい』とおっしゃっていて、素敵な考えだと思いました。私も、最初の一歩って怖がってしまうこともあるので、あまり臆せずに、まずは相手の懐に飛び込んでみようと思えました」
松井さんは次回の「わたしの日々が、言葉になるまで」にも引き続き出演されます。抱負を伺えますか。
「番組でひとつの言葉を囲んで、みんなでじっくり考えてみることで、自分が日常で発する言葉も『どう受け取られるかな』と想像したり、『こう言ってみよう』と別の表現を見つけられたりできそうです。次回のテーマは『あいつにガツンと言い返すときの言葉』だそうで、ほかの出演者の皆さんからどんな言葉が飛び出すのか、今からもうワクワクしています」
【番組情報】
「わたしの日々が、言葉になるまで」(Eテレ、毎週土曜20:45~21:14/再放送 Eテレ 毎週木曜14:35~15:04/配信 NHKプラス https://www.nhk.jp/p/ts/MK4VKM4JJY/plus/)。次回の放送は4月19日(土)20:45~。「あいつにガツンと言い返すときの言葉」を探究します。