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あんびるやすこさんの新シリーズ「魔法の庭の子ねこたち」インタビュー  あなたが「とくべつ」な本当の理由

あんびるやすこさん=石井広子撮影

絵本から物語へ 読書の入り口となる作品

――あんびるさんのこれまでの作品「ルルとララ」や「なんでも魔女商会」などのシリーズには、お菓子や洋服、裁縫など子どもたちにとってワクワクするような楽しいモチーフがたくさん盛り込まれています。「魔法の庭ものがたり」シリーズは、童話には珍しくハーブがモチーフとなっている物語ですね。

 「魔法の庭ものがたり」シリーズでは、一人の普通の女の子ジャレットが、ひょんなことからハーブ魔女・トパーズから、「トパーズ荘」(トパーズの屋敷)、「魔法の庭」(屋敷の前に広がるハーブガーデン)、「レシピブック」(トパーズが書き残したハーブ薬のレシピ)という3つの遺産を相続します。でも、ジャレットはトパーズと違い、魔法をつかうことはできないため、心を込めてハーブを育て、薬を作り、周りの友達や動物たちを幸せにしていくという物語です。ハーブは、小学生が好むものなのかどうか、結構悩みましたが、モチーフにしてみたらすごく好評で驚きました。

――新シリーズ「魔法の庭の子ねこたち」は、ジャレットと一緒に暮らす子猫が主人公で、「魔法の庭ものがたり」シリーズと同じ世界観が楽しめます。物語の連続性がありますね。

 そうなんです。幼いときは「魔法の庭の子ねこたち」から読んでもいいし、少し大きくなってから「魔法の庭ものがたり」シリーズに読み進んでもいい。物語の世界をどんどん楽しんでほしいなって思っています。

――新シリーズについて、こだわったところを教えてください。

 「魔法の庭ものがたり」シリーズは文字が多く、小学生の中高学年ぐらいの子どもにぴったりのお話なのですが、本作は、もっと小さな子ども向けに作ったお話です。物語の構想にいつもより時間がかかり、4カ月くらいかけて作りました。自分一人で読むのを始めたばかりのお子さんが、絵本の延長として楽しく読めるように、読書の入り口にもなるように工夫しています。

『魔法の庭の子ねこたち アンのおはなし』(ポプラ社)より

 小さい子でも物語に入りやすいようにフルカラーで作り、絵本のように絵をたくさん入れて、文字の量や言葉づかいをすごく工夫しました。ページの色や額縁のような飾りにもこだわり、編集者と何度も相談して、まるでプレゼントのような作品になるように心がけました。猫たちがとにかく可愛く見えるように……。一作目の主人公をアンに設定したのは、6匹のなかで、読者から人気が高いからなんです。

『魔法の庭の子ねこたち アンのおはなし』(ポプラ社)より

――アンは「とくべつになれる」と信じていますが、結局、本当の「とくべつ」という意味を知るときがきます。この物語の根底にある「ありのままで、みんなとくべつ!」というメッセージが、「人と比べなくていいんだよ」と読者を励ましてくれているように感じました。

 子猫たちの写真が村の写真コンテストで優勝し、その中で最も注目を浴びたのがアン。毛皮がぴかぴかだったからです。そしてどんどん有名になっていく。でも見た目や、誰かと比べてすごいからとか、才能があるから特別なのではないんです。「あなたのことを大事に思ってくれている人がいる」ということが特別なんだよと伝えたかったんです。お父さんお母さんや、お友だち、先生たち、そういう人たちが、あなたを大事に思ってくれているからです。そして自分のことを特別に思ってくれる人は、自分にとっても特別な人、特別な存在であることに気づいていってくれたらいいなと思っています。

『魔法の庭の子ねこたち アンのおはなし』(ポプラ社)より

――「魔法の庭の子ねこたち」シリーズは、これからどのように展開していくのか教えてください。

 アンを含めて全部で6匹の子猫たちがいますので、その個性豊かな1匹1匹が主役になる物語を続々と考えていきます。書店で並べられた時に、表紙の猫と目が合うようにギリギリまで猫の絵を大きくしているので、6冊揃ったらきっと可愛いですね(笑)。子猫たち、みんな違って、それぞれに魅力があるので、楽しみにしていてくださいね!

猫たちが教えてくれる大事なこと

――そもそも、あんびるさんが、絵本作家になったのはどんなことがきっかけでしたか?

 子どもの頃からお話を作るのが好きで、紙に絵を描いては、それを物語にして遊んでいました。当時はそれが仕事になるなんて思っていませんでしたが、振り返ってみるとあの頃の遊びがそのまま今の仕事につながっていると思います。

 小さい頃は「絵本は大人が子どもにあげるもの」「子どもってこういうのが好きなのでしょ?」と大人から子どもに押しつけられている感じがして、あまり楽しくなかったんです。だから私は、大人になったら「本当に子どもが喜ぶものを作りたい」って思っていました。そして絵を描くお仕事がしたいと思った時に、絵の作品だけを出版社に見せに行ったんです。そしたら「お話も書いてみたら?」と勧められて、物語も書くようになりました。
 日々の生活の中で、「あ、これ物語にできそう」と思う瞬間があるんです。自然の中にある不思議だったり、人との会話の中でのちょっとした発見だったり……。小さなことでもそれがきっかけになって、登場人物や物語が少しずつかたちになっていきます。

――『魔法の庭の子ねこたち アンのおはなし』の最後には猫との接し方を紹介するページがあり、帯には「大事なことは、みんなねこが教えてくれる」とあります。ご自宅で猫を飼っていらっしゃることは、作品づくりにどんな影響がありますか。

 飼い猫からは、確かに影響はありますね。うちの猫はとっても人懐っこくて、お客さんが来るとすぐ近くに寄っていくんです。猫って気ままで、自分の好きなように生きているでしょ? 昨日のことも気にしないし、明日のことも心配しない。「今を楽しむ」という生き方が、猫の素敵なところだと思っています。

 だから、猫たちが教えてくれる「生き方」みたいなものを、お話の中にこっそり入れているのです。子どもたちも、モヤモヤした気持ちを抱えることがあると思いますが、猫たちがその気持ちをほぐすヒントをくれるかもしれません。

あんびるやすこさん=石井広子撮影

短い言葉や絵に「人生で大切なこと」を込めて

—— あんびるさんの作品は、困難に立ち向かうキャラクターが多く登場しますね。子どもたちだけでなく、大人にとっても心に響く作品だと思いますが、物語を通して伝えたいことは。

 子どもたちに特に伝えたいのは、“やさしさ”は“弱さ”ではないということです。相手を思いやったり、誰かのために行動したりすることは、実はとても勇気のいること。それができる子は強い子だと思います。そんな姿を、物語の中で描いていきたいと思っています。

 絵本や童話には、短い言葉や絵の中に、人生にとって大切なことがぎゅっと詰まっているんです。大人が読むと、子どものときには気づかなかったメッセージにハッとすることもあります。忙しい毎日の中で、自分を見つめ直す時間にもなるんじゃないかなと思います。自分の心の声を大切にして、今、目の前にある小さな幸せに気づいてほしい。私の作品がそのきっかけになれたら、こんなに嬉しいことはありません。