詩的な超短編で知られる米ニューヨーク在住の作家バリー・ユアグローの新作『松明(たいまつ)のあかり 暗くなっていく時代の寓話(ぐうわ)』(twililight・1540円)は、書き下ろしの22編を収めた作品集だ。85ページの軽い見た目に反し、「米国のいま」に刺激を受けた濃密な言葉で満たされている。
大半の作品は、4~6月に訳者の柴田元幸さんにメールで届いた。バリーが一刻も早い発表を望み、柴田さんは、5年前にバリーがコロナ下で書いた作品を短期間で刊行した編集者の熊谷充紘(みつひろ)さんに打診。今作は最後の原稿が届いてから1カ月半、どこよりも早い日本語版の刊行となった。
このスピード刊行の実現を「バリーは相談するように柴田さんに原稿を送る。何度もバリー作品の翻訳をした柴田さんへの信頼感」のおかげだと熊谷さんは考える。訳者が版元へ寄せる信頼も厚い。熊谷さんは言う。「世界で暴虐や戦争が絶えないが、日本でも政治に不安を感じる人は多い。人々は不安の中でどう生きるのか。そんな問いが詰まった小さくても重い一冊」(伊藤宏樹)=朝日新聞2025年9月6日掲載