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「怪奇な文芸、妖美な絵画」書評 過剰なまでの知識で深奥の森へ

評者: 横尾忠則 / 朝⽇新聞掲載:2026年03月07日
怪奇の文芸、妖美な絵画 ――文豪たちと画家たち 著者:東 雅夫 出版社:KADOKAWA ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784041130179
発売⽇: 2025/12/23
サイズ: 12.9×18.8cm/192p

「怪奇な文芸、妖美な絵画」 [著]東雅夫

 文芸と絵画の濃密な蜜月交差で、江戸川乱歩、泉鏡花、谷崎潤一郎らが妖美な絵画から如何(いか)なる霊感を得たか、また画家が文芸からどれほどの滋養を得たか。
 そこで閉塞(へいそく)した懐古趣味の牢獄になぜ閉じ込められなければならなかったのか。はたまた如何なる方法で閉塞状況から脱出したのか。さらになぜ怪奇の王道の毒を標本として閉じ込めなければならなかったのか――。
 かような状況において著者はあらゆる知識を動員し、過剰なまでに知識を前面に押し出しながら、この怪奇と妖美の世界観を読者に語りかけていく。そんな著者の文体があり、さらに参考資料として取り上げられた作品の原文がゴシック活字で並置されるので、読者は視覚的窒息感に襲われながらも、文豪たちと画家たちの深奥の森にさまようしかないのです。
 それから、各ページに配置される本の装幀(そうてい)や挿絵の図版が、鑑賞の域を超えて小さく掲載されているけれど、図版が鮮明でないのが残念といえば残念。そして、「怪奇の文芸、妖美な絵画」が、如何にも大正浪漫的懐古主義のデカダンスの範疇(はんちゅう)に安住しているのも気になるけれど、本書の性質上やむを得ないのかも知れませんね。
 本書から話がそれてしまって申し訳ないが、以前、江戸川乱歩の小説の何篇(ぺん)かの挿絵を依頼されたことがある。絵にしたかった箇所は必ず物語のクライマックスであったが、ここを描いてしまうと小説に対する裏切り行為としてタブーを犯すことになってしまうので、あえて別の箇所を描いた覚えがある。
 そして、このような挿絵によって物語のクライマックスへの期待と戦慄(せんりつ)をこれでもかと盛り上げていくテクニックを必要とする。そして、小説家と挿絵画家の暗黙の陰徳行為で、より戦慄的な関係が成立することによって、創造力の去勢からまぬがれ、最後に、既知の怪奇趣味に堕(お)ちてしまわないことになる。
    ◇
ひがし・まさお 1958年生まれ。アンソロジスト、文芸評論家。『遠野物語と怪談の時代』で日本推理作家協会賞。