カレー沢薫「レベル1から考えるお金の話」(第9回) 身も蓋もない本音に痺れる
タイムマシンのことを思う時、いつもドバイの自販機が頭に浮かんでしまう。
約20年前、旅行でドバイを訪れた時、空港だったか街角だったか忘れたが、「純金」を売っている自販機があった。その日のレートによって価格が変動するシステムで、耳かきほどの金がパッケージされ、並んでいた。当時の自分は値段をよく見ることもせず「うわードバイって感じ!」と、異国のエッセンスを味わっただけで満足していた。
もし、タイムマシンがあったらあの日のドバイで有り金はたいて金を買うのに。いや、わたしが貯金も含めて全ツッパしたところで知れてるけれども。あとは何だ、株とかビットコイン? ロト6? 妄想から我に返ると「金のことばっかじゃねえか」と情けなくなる。いつも漠然とお金について考えている気がする。今月カードの請求やばそうとか、原稿料の振込ありがてえっすとか。今は、確定申告の結果をどきどきしながら待っている。自力ではない。税理士さんにすべてお任せしている。書き物に加えて確定申告の〆切まで抱えていられない。今は便利なソフトもアプリもたくさんあるので「月に1回領収書整理して入力するだけだよ?」と宣う知り合いもいるけれど、それすらできない人間につき、尻から火柱が噴き上がるような進行に常時追われている。もちろん今も。
働けど働けど、困窮しているわけでなくとも、「将来」「老後」といった単語には心が曇り、不安になる。たぶん1億持ってても不安だと思う。10億なら不安じゃないかも。検証したいから誰かください。あした死ぬかもしれなくて、そうなったら死ぬ時に「つまんないこと心配してたよな〜」と思うに違いないけれど、死ななかった時に「やべ、生き延びちゃった」と途方に暮れるほうが怖い。
自分の行く末もわからないが、そもそも「お金」のことをよくわかっていない。税金やふるさと納税についての理解もふんわりしたものだし、インボイスの仕組みを何度調べ直しても1カ月後には忘れている。肌のターンオーバーと同時に記憶もリセットされる仕組みなのかもしれない。
お金のことばかり考えているわりにお金オンチ、そんなわたしのために描かれたような漫画が『レベル1から考えるお金の話①』(カレー沢薫/シュークリーム)だ。
貯蓄、投資、納税、相続などお金にまつわるさまざまな疑問をその道のプロにわかりやすく解説してもらい、そもそもお金とは、人間の幸せとは何なのか、という哲学的な側面をも掘り下げていく。フリーランスにも勤め人にも役立つ情報が凝縮された一冊ではあるものの、ぶっちゃけお金のノウハウ本なら巷に溢れかえっている。「漫画でわかる〇〇」系な。本作の何が面白いかというと、聞き手である著者の身も蓋もない本音が芯を食いすぎているところ。
「しかし節約なんてしみったれたことはしたくねえし 労働はクソ! 今すぐやめたい」
「確かに細かい計算とか面倒だし それにガタガタ言われるのも面倒だし 何より怒られるのが死ぬほど面倒だ」
「面倒事を押し付けられたくなければ誰よりも早く正気を失え 人生は正気早捨て選手権だ」
金言じゃないですか、ということはこれもある種のお金。日頃、脳裏をよぎりはしても、節度ある常識人の皮をかぶって生きていく上で絶対に公言できないパンチラインの連続。痺れるぜ。すっきりしつつ、よかった、自分だけじゃないんだ……と安堵を覚える。とはいえお金に関する問題は汲めども尽きぬ泉の如しで、生きている限り不安や煩いは続く。本書を読んで、己の不安の正体を明らかにすれば、ちょっとお金とつき合いやすくなると思う。
とりあえず、税理士さんからのメールを正座で待ちます。