「生誕100周年記念 安野光雅展」開催 発想力、空想力、表現力に満ちた安野ワールドへ
安野さんの絵本デビュー作『ふしぎなえ』や『さかさま』『ふしぎな さーかす』(いずれも福音館書店)は、一度ぱっと見ただけでは気づかない、安野さんのアイデア、ユーモア、技術力があふれる作品です。絵本をひっくり返して、どっちが天井?どっちが床?と絵を見つめ続けた体験をした方も多いのではないでしょうか。安野さんは子どもの頃、鏡に映り込んだ風景を見ながら、空想を広げていたといいます。
今回の展示では、この初期三部作などの貴重な原画を展示。損傷が激しいため、外部の展覧会にはほぼ貸し出しされない作品もあるなか、津和野町立安野光雅美術館の協力のもとで実現しました。
展覧会を案内してくださったPLAY!プロデューサーの草刈大介さんは、展覧会についてこう語ります。「今回は、安野さんの作品をまずはじっくり見ていただくための展示方法を試行錯誤しました。来館者に目の前のものを見て、感じて、自問自答する体験をしてほしいと思っています。安野さんの描く不思議、空想、驚き、ユーモアに、ご自身で出会って発見していただきたいです」
絵本のワンシーンを再現したフォトスポットは、リンゴがひとつのった巨大皿。安野さんが作画を手がけた『おおきな ものの すきな おうさま』(講談社)に出てくる、なんでも大きいものを作らせる王様の食事風景です。穴の中から顔を出してみると、その滑稽な感じが実感できますね。
旅人の目線で暮らしや歴史を描いた名作「旅の絵本」シリーズ(福音館書店)は、安野さんのベストセラー作品のひとつです。本展では原画のほか、絵本の風景を3m×50mの壁に引き伸ばして、まるでそこに街があるかのように感じられるよう展示。「旅の絵本」シリーズ制作のきっかけとなった「飛行機が着陸する前の、期待に満ちた風景を見て」という言葉に着想を得て、飛行機の窓や家の窓越しに街を覗き込む体験ができる仕掛けが作られています。
その奥には、画集『野の花と小人たち』(岩崎書店)の拡大絵が飾られ、まるで自分も草むらからのぞいているかのような気持ちになれる展示があります。安野さんの絵は拡大されても画が崩れることなく、どこまでも絵の世界に入り込めるのが魅力です。
キュレーターの林綾野さんは、「安野さんは、言葉に値するぐらいの伝える力をもって絵を描いてきた方です。その絵から感じ取り、想像力を受け取ってきた人たちが、次の時代を紡いでいっています。本展では、安野さんに影響を受けた次世代のクリエイターからのメッセージもいただきました」と話しています。
「先生へ」と題して、現代のクリエイターが安野作品について語ったインタビュー映像は、展覧会場の序盤で流れています。参加クリエイターは、安野モヨコさん、片桐仁さん、きくちちきさん、tupera tuperaさん、辻川幸一郎さん、ナカムラクニオさんの6名です。子どもの頃に作品を見た衝撃、職人としてのすばらしさ、自身の作品にも影響を与えた絵本など、安野さんへの深い想いを語っています。
最後の小部屋は、安野さんの著作物が並ぶコーナー。上の3段は貴重本のために手に取ることができませんが、こんな作品も作っていたんだと知ってほしいと、あえて展示してあります。装幀家、文筆家としても活躍した安野さんの仕事が垣間見られます。
安野さんの個展ではこれまであまり図録は作られていませんが、生誕100周年の記念として、特別に作られた図録もミュージアムショップで売られています(会場限定販売)。あえて文章を極力入れず、絵を中心としたシンプルな構成で、初期の作品から『もりのえほん』『天動説の絵本』(いずれも福音館書店)、画集まで、さまざまな安野作品を収録しています。
絵本用の絵でも、一枚で壁に飾っておける完成度で描いていたという安野さん。原画だからこそかみしめられる、登場人物のユニークさ、植物や風景の細やかな表情、線の美しさなどを堪能してみてはいかがでしょうか。