第42回織田作之助賞の贈呈式が4日、大阪市内で開かれ、「ソロ・エコー」(講談社)で受賞した島口大樹さんと、「百日と無限の夜」(集英社)で受賞した谷崎由依さんの2人が記者会見で喜びを語った。
「ソロ・エコー」は、失踪した父が残したカメラを手に、横浜の街を歩く青年が主人公。島口さんは横浜の大学に通っていた学生時代にフィルムカメラと出会い、「何のためかもわからずに、ただひたすら歩き回っていた。そのときの感覚と横浜の街にたまった時間を歩き直すようにして、何とか物語を最後まで書き上げられた」と振り返った。
語り手の「僕」はカメラを通して、あり得たかも知れない光景を追いかけようとする。「いまの世界情勢を見ていても、誰かが何かを一つしただけで物事が思わぬ方向に進んでしまう。あり得た可能性について作家が繰り返し思いを巡らせていくのは、大事なことなのかなと思います」
「百日と無限の夜」は、妊娠中に切迫早産と診断され、入院を余儀なくされた「わたし」が、もうろうとした意識のなかで幻想と現実を行き来する長編。谷崎さん自身も切迫早産で子どもを産み、「私にとっては言葉を絶するような経験だった。産後、それまで使っていた言葉では、この経験を表すことはできないと思った」という。
「言語は不完全なものであり、どうあっても事象そのものにはなりえない。けれども、小説や詩を書いたり読んだりするなかでは、そのさらに先をいつも求めていると思う」とした上で、「言語の限界、理性の限界にいちばん近く行けた体験だった。書いている時点でも、これは失われていくものだということがわかっていたので、残せてよかったなと思っています」と語った。(山崎聡)=朝日新聞2026年03月11日掲載