1. HOME
  2. インタビュー
  3. わたしの大切な本
  4. 俳優・庄司浩平さんの大切な本 自分なりの答え もがいて探して

俳優・庄司浩平さんの大切な本 自分なりの答え もがいて探して

庄司浩平さん=篠田英美撮影

 まどろみの中で、本を開く。仕事に向かう途中にページをめくる。俳優の庄司浩平さんのそばには、いつも本がある。昨夏のドラマで注目を集めた新星だが、平坦な道のりではなかったという。庄司さんが、大切な本に選んだのは、そんな日々に読んだ2冊だ。

    ◇

 「本を読んでいるだけでお褒めの言葉をいただくことが多い。大変ありがたいんですが、僕にとって読書は、娯楽の一つなんです」

 愛読家の両親の元に生まれ、子供の頃から、本は身近だった。家族と一緒に、地元の図書館でたくさんの本を借りていた。年間100冊以上読んだこともあった。

 元々、表舞台に立とうと思っていたわけではない。一般企業に勤めるような将来を思い描いていた。それが突然、大学生の時、バイト帰りにスカウトされた。みんなが体験できるわけではないから、ちょっとのぞき見してみよう。特撮ドラマでデビューした。

 だが、卒業が近づくと就活も始めた。「自分の中でずるいダブルスタンダードができていた。まだ芸能という浮世離れしたところには、片足のつま先ぐらいしか漬かっていないという思いと、変わったことをやっているという奇妙な自尊心で、どっちつかずだった」

 悩んでいた。「当時は、正しさの基準を欲していたんですよね。物事には必ず正解があって、それ以外は間違いだと思っていたから、生きづらかった」

 そんな学生時代に読んだ1冊が、ブレイディみかこの「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」だった。イギリスの中学校に入学した「ぼく」は、古くなった制服を着る友達に手を差し伸べたいが、傷つけるのではと思う。ぼくが、自分なりの答えを出して成長していく姿に、「必ずしも全員が共通する正解をもっているわけじゃないし、正解を見つける作業が必要かどうかは別問題だと、なんとなく肌感覚で分かった」。

 結局、企業の内定は辞退した。もうちょっと面白いものが見られるかもしれないと思ったからだ。とはいえ、俳優だけでは食べていけず、学生時代にバイトしていたレストランで再び働き始めた。

    ◇

 村田沙耶香の「コンビニ人間」を開いたのは、その頃だった。〈コンビニエンスストアは、音で満ちている〉という一文で物語は始まる。主人公は店員として、コンビニの店内に流れる無数の音から情報を拾い、動く。コンビニと同一化している瞬間もある。

 「非常に分かる。まずい、と思った」。レストランに響くウーバーイーツの通知音。お客さんが求めていることを察して、オートマチックに動いている自分。冒頭の描写が、レストランバージョンにありありと転写できた。ギクリ、とした。レストランで働いていれば生活はできてしまうが、早くここから抜け出さないといけないという焦燥感があった。

 俳優以外の道も再考したが、別の仕事をする自分の姿を想像すると、耐えられなかった。もがきながらも、少しずつ前に進んだ。2025年夏にテレビ東京系のドラマ「40までにしたい10のこと」に出演して注目を集めると、ついに加速度的に状況が変わった。

 「コンビニ人間」の主人公は、一度コンビニを離れたものの、そこが自分の居場所だったと気付く。「主人公も迷いながら紆余曲折を経て、結論にたどり着いた。やっていることは、構造上、僕と同じかなと思います」
 実は、俳優業の他に自らの幅を広げるため、執筆活動も続けていた。4年前から「note」で小説を書き始め、今では書くことが仕事の一つになっている。「今は間違いなく靴底の高い物をはかせてもらっている。そこは認めて甘えつつ、実力に変えていきたい」

 演じることと書くことは、全く別の作業だが、行間を大切にするという点は共通している。「現代社会は答えを求めがちだけど、全部を表さないことが大切かなと」
 いまの目標は、紙の本を出して、作家を名乗ること。俳優であり、作家でもある。そんな未来を思い描いている。

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー ブレイディみかこ・著

 著者の息子「ぼく」は、殺伐としたイギリス社会を映し出す「元底辺中学校」に入学する。直面するのは、経済格差に人種差別。毎日、いろんなことが起きる。悩み考えながら進むぼくと、著者の毎日がつづられたノンフィクション。

コンビニ人間 村田沙耶香・著

 主人公は、コンビニバイト歴18年。幼い頃から、「普通」にはなれなかった。だが、コンビニ店員として働くと、世界の歯車になれた。そんな毎日は、婚活目的の新入り男性の登場で、少しずつ変わっていくのだが……。第155回芥川賞受賞作。