ISBN: 9784309231884
発売⽇: 2026/04/28
サイズ: 12.8×18.8cm/242p
「歴史学者、ガザに潜入する」 [著]ジャン=ピエール・フィリユ
書名からジャーナリスティックな戦場ルポを想像すると、いい意味で裏切られる。フランスの外交官としてアラブ各地を歴任し、パレスチナの歴史に精通した研究者として多くの論文やコメントを発信し続ける著者が、国際人道団体「国境なき医師団」の一員として、2024年末から一カ月、イスラエル攻撃下のガザを訪れた記録である。
冒頭に、同じ悔恨の言葉が繰り返される。ガザの惨状は覚悟していたのに、専門家として知っていたはずなのに、そんな経験と心構えは「何一つとして」役に立たなかった。それほど、著者が目撃したものは想像を絶する破壊であり、殲滅(せんめつ)であり、「世界の終りの光景」だった――イスラエルがその実態を世界に知らしめたくないほどに。
何重にイスラエル政府と「調整」してもなお、人道支援物資の搬入は阻まれ続け、ガザで起きていることを伝えようとするジャーナリストや医師は、かつてない数が命を落としている。イスラエル軍に破壊された病院のボードに残された医師の「私たちはできるかぎりのことをした」とのメッセージには、胸が詰まる。
研究者であるがゆえに、対立の背景分析、現状把握も見事だ。イスラエルの袋小路にパレスチナが、ハマスであれ西岸の自治政府であれ袋小路に追い込まれ、「私たちの世界」も「破壊が猛威を振るうのを放置した」。リアリスト(「諦めて見捨てる」人と同義だ)にはいまさら詮無(せんな)いといわれるだろうが、パレスチナがもともと「イスラエル国家を『自由で民主的なパレスチナ』に置き換え」ることを目指していたという理想、ガザ住民の帰還はかつてイスラエル建国時に住処(すみか)を追い出された時点以来の希求なのだという正論の指摘に、深く首肯する。
再訪を約束することで、歴史学者はガザを見捨てない覚悟を誓う。それはウクライナ(や今ではイラン)にも連なる、「おぞましい世界」の到来に全力で抗するためだ。
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Jean-Pierre Filiu 1961年生まれ。パリ政治学院教授(中東近現代史)。著書に『中東 世界の中心の歴史』など。
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堀千晶訳