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韓国のベストセラー編集者イ・ヨンシルさん「エッセイ本のつくり方」 読書ブームの牽引役を作るコツ

イ・ヨンシルさん

 韓国ではエッセイ本は、書店でもっとも人気のジャンルの一つ。日本では自己啓発本や新書に分類されるような内容も、エッセイという形で出版されることが多く、「テキストヒップ」(読書は格好いい)と呼ばれるブームを牽引(けんいん)している。その人気の立役者の1人が、編集者のイ・ヨンシルさん。著書の「エッセイ本のつくり方 韓国ベストセラー編集者の企業秘密」(ミシマ社)が邦訳されたのを機に来日したイさんにインタビューした。

 「私はエッセイ本が嫌いだった」――。編集者としての20年間の経験とノウハウを記した著書は、この一文から始まる。大学まで小説家を志望していたイさんは、当時「雑文」と軽んじられていたエッセイに関心はなかったという。だが、就職した名門出版社「文学トンネ」ではちょうど、エッセイなどを扱う「非小説」部門を新設しようとしていた。

 「文芸を担当できると思っていたのに、自分の配置先は『非小説』チームだと聞いて、左遷されたのだと思いました」

 エッセイ本を手がける面白さを感じたのは、自身が2冊目に責任編集した平野啓一郎の「本の読み方 スロー・リーディングの実践」の翻訳書だった。「パリパリ(早く早く)文化」などと言われる韓国で、遅読というテーマをどう魅力的に見せるか。悩みに悩んで、帯文で「プロ読書家の企業秘密 平野啓一郎の遅読な読書法」と打った。結果は大成功。「その時、これはとても面白い仕事だ、と思ったのです」

 イさんや仲間の編集者は、著名な作家や詩人が書き留めた文章といった位置づけだったエッセイというジャンルを自由に解釈することでベストセラーを次々と生んでいった。IVEやIUら韓国のトップミュージシャンの曲を生んできた有名作詞家のキム・イナのエッセイを出版しようとした時には、「文芸出版社から出すべき本ではない」という声があった。でも、イさんは「歌詞も十分に優れた文学であり、エッセイだ」と主張し、「キム・イナの作詞法」(未邦訳)として出版。10万部以上売れたベストセラーとなった。

 4年前、独立して新たな出版社を立ち上げた。最初に作ったのは、ウクライナの作家、オリガ・グレベンニクがロシアの侵攻を受けてブルガリアに逃れる過程を描いた「戦争日記 鉛筆1本で描いたウクライナのある家族の日々」(邦訳は河出書房新社)。「この本を作って世界にこの物語を伝えれば、戦争が終わるのに役立つかもしれないと考えて」。通常は出版まで半年以上かかるが、契約や翻訳も含めた工程を20日で完成させた。睡眠を削ったためか、歯も抜けた。

 本が出版されると、書店が本を売ったお金を「オリガさんに届けて」と返金してくれた。「戦争を止めることはできなくても、本を読むことで誰かの人生をより良くすることはできる。そう信じるようになりました」(守真弓)=朝日新聞2026年9月16日掲載