1. HOME
  2. インタビュー
  3. えほん新定番
  4. 真珠まりこさんの絵本「もったいないばあさん」 子どもに伝えたい「ご飯を残すと、なぜもったいないの?」

真珠まりこさんの絵本「もったいないばあさん」 子どもに伝えたい「ご飯を残すと、なぜもったいないの?」

『もったいないばあさん』(講談社)より

子どもの問いが生んだ「もったいない」の物語

――4歳の息子に「もったいないってどういう意味?」と聞かれたことが、絵本『もったいないばあさん』(講談社)の出発点だったと語る真珠まりこさん。子どもが食べ残したところに突如現れたおばあさんが、「もったいない」と食べてしまう。水を流しっぱなしにすれば、やっぱり「もったいない」と現れる。最初は怖いと思っていたおばあさんが、楽しい生活の知恵を少しずつ教えてくれる――言葉では伝えきれない「もったいない」の意味をどう説明すればいいのか、その戸惑いが絵本づくりの最初の一歩になった。

 息子が4歳の時にご飯を残していたので、「全部食べようね、もったいないから」と言ったら、「もったいないってどういう意味?」って聞いてきたんです。4歳の子どもっていろんなことを質問してくる時期で、いつもはうまく答えていたと思うんですけど、「もったいない」だけはうまく説明できなかったんですね。なぜそれを大切にしたいのか、理由まで説明しないと伝わらない言葉なんだと気づいて、「農家の方が雨の日も風の日も……」と話し始めたら、長すぎてもう途中から聞いていない。言葉だけでうまく説明できないなら、絵本があればいいのではと思って探したけれど見つからなかったので、自分で作ることにしました。ちっちゃい子は言葉が稚拙でも、心でイメージすれば理解できることも多いので、絵本を読んでわかってくれたらいいなと思いました。

『もったいないばあさん』(講談社)より

 コピー用紙にマジックで描いた紙芝居みたいな『もったいないばあさん』を作って読んでみたら、息子がもう一回読んで、もう一回読んでって言ってくれて。息子は『すてきな三にんぐみ』や『ねないこ だれだ』のような、少し怖いけど目が離せない絵本が好きだったので、そんな雰囲気の絵本になったらいいなと思いました。おばあちゃんの顔は、編集者さんに「1回見たら、忘れない顔を考え直してみてください」と言われて、ある日、観音様のお顔を見ているうちに思いつきました。観音様の半分開いた眼は、どこを見ているかわからないけど、全てを見ている目なんだそうです。もったいないばあさんも、もったいないことをしていたら、全部見てとんでくるよ!という意味を込めて、半眼にしました。

 絵は、描いて切って貼る貼り絵の手法で作っているんですが、実は、新聞の回収袋を使っているんですよ。朝日新聞の回収袋が一番発色と質感がよかったので(笑)、そこにマジックで描いて、カラーインクで着色をして、周りをハサミで切って、味わいのある線を描きました。

『もったいないばあさん』(講談社)より

「もったいない」はケチとは違う。循環という考え方

――『もったいないばあさん』は多くの子どもたちに読まれる絵本となり、朝日小学生新聞などで「もったいない」をテーマに連載されることになる。連載に当たって、日常の中の“もったいない”を見つけるのが真珠さんの日課となった。暦や暮らしの知恵に関する本を読んだり、自然体験に行ったり、さらに読者との経験も通して、伝えたいことの本質が見えてくる。

 読者の男の子に「もったいないばあさんって、けちんぼだね」と言われたことがあって、ケチともったいないは何が違うんだろうとずっと考えていて……。連載を続けるうちに、「ケチは執着、もったいないには愛がある」と思うようになりました。いっぱい持っていても自分だけのもので、人にあげるのは嫌、というのはケチ。もったいないばあさんは、いいものは分け合ったほうが楽しいと思っているし、「もったいない」には、自然の恵みやいただく命への感謝、大好きな人にもらったから、大好きなものだから大切にしたいという愛情が込められています。

 辞書で「もったいない」を引くと、「勿体(もったい)」とは「あるべき姿」とあって、「そうじゃないから、もったいない」と書いてあり、あるべき姿ってなんだろうというのもずっと考えていました。それは「循環すること」なのではと、今は感じています。いろんなものが巡り巡り、生かし生かされて、捨てられるものがない状態。それがあるべき姿で、そうじゃないともったいないんじゃないかな、と。

――2024年に20周年を迎えた「もったいないばあさん」シリーズ。20年目記念作『もったいないばあさんの おばあちゃん』では、もったいないばあさんが子どもの頃の思い出を語る。米作りをしていたおばあちゃんを通して、自然の恵みや関わった人たち全てに感謝をすること、生きものたちへの思いやり、命のつながりなどを、温かく伝えている。

「もったいないばあさんは、なぜもったいないばあさんになったのか?」という本を作りたかったんです。「ひとつぶのこさずたべるべし!」というのはもったいないばあさんの口癖ですが、私も親から「ご飯粒を残したらバチがあたる」と言われて育ち、息子にも「ご飯粒だけは残さないようにしようね」と言ってきました。それはなぜか? そこに答えがあると考えました。

 田んぼでお米を育てていた、もったいないばあさんのおばあちゃんは、お日さま、雨、風、土、草、いっしょに作ってくれた人たちに「ありがたや、ありがたや」と手を合わせて感謝をする人でした。その姿を見て「ひとつぶひとつぶ、ありがたくてもったいない」と思うようになった、もったいないばあさん。大事なことを教えてくれたおばあちゃんは、そのまたおばあちゃんから教わって……。命がつながって、今自分たちはここにいるということも、本を読んで感じてもらえたらうれしいです。

『もったいないばあさんの おばあちゃん』(講談社)より

命の大切さを伝えることば、平和のメッセージ

――『もったいないばあさん』は国内だけでなく、海外でも紹介されてきた。国際的な環境関連のイベントや巡回展「もったいないばあさんのワールドレポート展」では、真珠さん自身が絵本を読み聞かせ、子どもたちと対話を重ねた。

巡回展「もったいないばあさんのワールドレポート展」で話す真珠さん(写真奥)=写真は本人提供

「もったいないばあさんのワールドレポート展」は、世界で起きている問題と、日本で暮らす私たちがどうつながっているのかを伝える展示会です。今世界で起きている問題は、命を一番に考えていたら起きなかったと思うことばかり。「もったいない」は、仏教では、命の大切さを伝える言葉と知り、その言葉のメッセージとともに伝えたら、子どもたちにもわかりやすく、心に響くのではと思って始めました。民族や国や宗教、文化、言葉が違っても、自分たちだけが正しいというのでなく、他の人が大切にしていることを同じように大切にし、みんなが必要なものだからこそ分け合う、そんな気持ち(けちではない、もったいないの心)があれば、世界は平和になると思うんですよね。

「自分さえ良ければと思わず、分け合う気持ちがあれば、平和な世界ができる」。そして、「命はすべてつながっていて、ひとつひとつの命が大切なんじゃよ」というのが、もったいないばあさんから伝えたい、とても大切なメッセージです。

巡回展から生まれた『もったいないばあさんと 考えよう 世界のこと』(講談社)では、世界の問題に巻きこまれて、厳しい環境で生きる子どもたちが描かれている

 絵本のいいところって、お話を読んでそれぞれが心で感じることだと思います。幼くて、長い言葉の説明がわからなくても、物語の中で大切なことを感じて学んでいく。そして、お話の中に入り込み、絵に描かれてない部分を想像する。想像力があれば、人の気持ちがわかる優しい人にも、自分で道を切り開く強い人にもなれる。それが生きる力につながると思うんです。

 子どもたちには、想像の翼を広げて、たくさん心を動かして、優しくて強い人になってほしい。自分の絵本でそんな体験をしてもらえたら、これほどうれしいことはありません。

書店のワークショップで子どもたちが描いてくれたもったいないばあさん=写真は本人提供

【好書好日の記事より】

真珠まりこさんの絵本「おべんとうバス」 子どもたちの大好きな「おべんとう」と「バス」を組み合わせ