くすのきしげのりさんの絵本「Life(ライフ)」 捨てられないものから生まれた物語
――誰かが不要になったものを置き、代わりに気に入ったものを持ち帰る。町のはずれにある小さなお店「Life」には、店員の姿もレジもない。この不思議なお店を訪れたのは、長年連れ添った夫に先立たれたおばあさん。夫が大切に育てていた花の種を持ち込んだことをきっかけに、町の人たちと静かにつながり、少しずつ前を向いていく。絵本『Life(ライフ)』(瑞雲舎)の構想が生まれたのは、くすのきさんが児童文学や絵本を書き始めた頃。その原点は、ものづくりが好きだった少年時代にさかのぼる。
そもそもこの作品を書きたいなと思ったのは、30年ぐらい前。私は子どもの頃から、ものを片付けることはできても、捨てることがなかなかできなかったんです。実は今もそう。工作やものづくりが好きで、古いラジオや壊れたテレビの部品を取っておいたり、鉛筆削りや筆箱、自転車が壊れたら自分で直そうとしたり。大学でも、ものづくりが好きだったので、教育学部で技術課程に進みました。
ものを捨てようとすると、当時の様子や思い出が次々と浮かんでくるんです。だから、誰かに譲ることはできても、捨てることがなかなかできない。子どもの頃から、ものの気持ちになって考えることもあったんだと思います。誰かの手に渡ることで、そのものが新たな役割を得る。そうしたものの視点に立って考えることは、実は私が作品を書く上でもとても大切で、大きな力になっています。
――誰かが置いていったものを、別の誰かが持ち帰る。「Life」という店の仕組みには、くすのきさんのものに対する考え方が反映されている。
この店は、究極のリユースシステムですね。リサイクルではなく、リユースなんです。ものをそのまま、別の人が使うわけですから。今はSDGsということがよく言われますが、この作品で描きたかったのは、単純にものの再利用ということだけではありません。おばあさんの人生の一場面を通して見えてくる、さまざまな人の人生や、町の人々のつながり、絆なんです。人は一人で生きているのではなく、互いに関わり合いながら生きている。そうした人生の姿を描きたくて、店の名前も作品のタイトルも「Life」にしました。
――「Life」という店を舞台に、夫に先立たれたおばあさんを主人公にしたのは、なぜか。
人生の中で家族を亡くすということは、とても大きな悲しい出来事だと思うんです。そこで、長年を共に過ごした夫を亡くしたおばあさんを主人公に選びました。夫を亡くし、花を育てる気持ちにもなれなかった。でも、「Life」を訪れたことで、町の人たちがおじいさんの花の種を持ち帰ってくれる。誰かが直接おばあさんに話しかけて慰めたり、いたわったりするわけではありません。それでも、花の種を通しておばあさんの思いが町の人たちに届き、互いの心がつながっていくんですね。
――冷たい風が吹く季節から始まった物語。再び「Life」を訪れたおばあさんの目に飛び込んできたのは、まるでおじいさんの花畑に立っているかのような光景だった。気づけば、春が来ていたのだ。
ここは個人的に印象に残っている場面です。人生には、つらい出来事に直面することもあります。でも、顔を上げることで見えてくるものがある。幸せは遠くにあるのではなく、意外と身近なところにあるのかもしれません。おばあさんがそうした幸せに気づき、少しずつ元気を取り戻していくところが好きですね。
――「Life」には、男の子や女の子、若い夫婦、結婚を控えたカップルなど、さまざまな人たちが訪れ、大切にしていたものと引き換えにおじいさんの花の種を持ち帰っていた。やがて、花の咲いた鉢植えが店に置かれるようになる。
それぞれの場所で、それぞれの人生の場面で、おじいさんの遺した種が芽吹き、花を咲かせている。花を育てることで、みんなが幸せを感じているんですね。そうした喜びがメッセージとなって届き、おばあさんを励ます力になったんでしょうね。作品の冒頭にもあるように、「たがいに 生かされながら生きている」ということだと思うんです。
――絵を担当したのは、画家の松本春野さん。くすのきさんは、どのような思いで松本さんに絵を託したのか。
いろいろな方が候補に挙がったのですが、松本春野さんの描くおじいさんやおばあさんの表情や姿がいいなと思ったんです。今回はおばあさんが主人公ですからね。
背景にも注目すると、ストーブが出ていたり、片付けられていたり、掃除道具の位置が少し変わっていたり……。棚に置かれたものも少しずつ変化しているんですね。そうした細かなところまで丁寧に描いてくださっています。
私はできる限り完成形に近づけて文章を書き、それをもとに絵を描いていただきますが、時には出来上がった絵を見て、文章を修正することもあるんです。そうやって一冊の絵本を作り上げていく過程は、楽しいですね。
――「Life」の世界は、短編集『すべての愛しきLifeへ』や絵本『Love Letter ~私への手紙~』へと広がっている。
短編集『すべての愛しきLifeへ』では、「Life」という店の成り立ちや、町の人たちとおじいさん、おばあさんとの関わりを描いています。一方、絵本『Love Letter ~私への手紙~』では、おじいさんとおばあさんの思い出を描きました。それぞれの物語を知ることで、「Life」の世界をより深く感じていただけると思います。
――「Life」に込めた思いを伝える講演活動にも取り組むくすのきさん。作品を通して、読者に届けたいものとは。
作品の向こうには、子どもから大人までさまざまな読者がいるので、その人たちの表情を思い浮かべながら書いています。読まれて初めて「作品」ですからね。絵本『Life(ライフ)』の中で特に気に入っているのは、「そう、目に見えるものも、見えないものも」というフレーズです。
これからも世界中の子どもたちに、広く、長く読まれる作品を一冊でも多く作っていきたいと思っています。