- 『反アート入門』 椹木野衣(さわらぎのい)著 ちくま文庫 1320円
- 『俳句一問一答』 岸本尚毅著 角川ソフィア文庫 1386円
- 『東京人の堕落時代』 夢野久作著 川崎賢子編 岩波文庫 1089円
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現代は、たとえば生成AI等によって、一義的な「分かる」ことへのアクセスが容易となった。それに伴い、一つの対象を一つの尺度で理解するのではなく、視点をずらし、複層的な視点から世界を捉え直すことが、これから求められてくるのではないだろうか。
(1)は、アートという身近な表象を、反アートという着眼点によって、そもそもアートと呼ばれているものを成立させている価値観や制度まで含めて問い直す。「わたしたちが棲(す)むこの世界の手触りをそのつど、確かめ直していく」。世界を表したいという人間の根源的な欲求と、新陳代謝のように変質してきたアートという価値観を俯瞰(ふかん)することによって、世界は更新されてゆく。
(2)は、俳句を入り口に、言葉によって世界をどう切り取るのかを考えさせる。「回転ずしは、夏の季語になるでしょうか」「推敲(すいこう)の留意点や手順について教えてください」など、実作者のみならず、すべての文芸愛好者にとって痒(かゆ)い所に手が届く一冊。
(3)は、関東大震災直後の東京を描くことによって、都市を単なる風景ではなく、そこに生きる人々の欲望や価値観、社会の構造まで含めた巨大な「現象」として捉え直す。今日では不適切な表現も散見されるが、図らずも東京の一面的な煌(きら)びやかさから剝離(はくり)した、体臭や呼気が感じられる。
アート、俳句、東京という、一義的に思えるものを今一度問い直すことによって、これまでとは異なる「私」を取り巻く世界の豊かさに気付くだろう。=朝日新聞2026年9月26日掲載