- 『名残の銀杏(ぎんなん) 千光寺精進ごよみ』 五十嵐佳子著 朝日文庫 990円
- 『帝都一の下宿屋』 三木笙子著 創元推理文庫 924円
- 『戦国小町苦労譚 一、邂逅の刻』 夾竹桃著 アース・スター文庫 935円
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秋の晴天に恵まれれば、食もすすむ。人気ジャンルのごはん×歴史時代小説から選書した。江戸のはずれの目黒の尼寺の庵主(あんじゅ)・慈恵尼(じけいに)と寺に集う人々、四季の食材が彩る(1)は、とろっと柔らかな蕪(かぶ)の田楽、兎(うさぎ)をあしらったふかしたての薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)、沢庵(たくあん)づくり、餅つき、慈恵尼と縁のある薬草にいたるまで秋から冬、季節の移ろいと自然の恵みの描写は読者に極上の癒(いや)しをもたらす。シリーズ三作目で描かれる慈恵尼の過去も、人とかかわる喜び、憂いを描いて読み応えがあり、これぞ小説の醍醐味(だいごみ)だ。
明治時代の東京、料理上手のまめまめしい大家がいる下宿に住む、やや偏屈な小説家が日常の謎を解く連作短編(2)。「帝都もの」を書き続けてきた作者は、広告代理店、蒔絵(まきえ)師といった新旧の職業が混然と繁栄する東京を描き出す。「(市場で売り買いされる食材は)季節という名の永遠なのだ」と、移ろうものに人々が願いを託すモチーフは、明朗な謎解きへと結ばれる。
視点を変え、歴史に詳しい農業高校の高校生が、尾張の織田信長のもとにタイムスリップし、戦国時代の農業に取り組む(3)。手持ちのかぼちゃ、トマトの種、サトウキビの苗、さつまいも三品種で「勝ち確」は見えるも、地理、経済、政治、技術史、分野横断的に専門知識を織りこみ、堆肥(たいひ)づくりからじっくり書くのがシミュレーションゲームのようで面白い。食べるシーンはメインではないが、収穫物を食した信長の反応で十二分だろう。
生きることは、食べること。さまざまな食の風景を堪能いただきたい。=朝日新聞2026年10月24日掲載