ISBN: 9784163920566
発売⽇: 2026/08/07
サイズ: 13.9×19.6cm/264p
「作家・山崎豊子」 [著]山崎豊子
山崎豊子という作家には度肝を抜かれる思いを何度か経験している。彼女の晩年、ある賞の贈呈式に病をおして出席した会場で、受賞の言葉を述べるにつれ、車いすから立ち上がらんばかりの迫力で「私の青春を返して」と、あの戦争へ向けてたった1人のシュプレヒコールを行った。会場は静まりかえり、激しい憤りの声だけが残った。生誕102年を期して出版された本のテーマは、まさにこれに尽きる。
度肝を抜かれた最初の経験は、中学生時代に『白い巨塔』、高校生時代に『華麗なる一族』に出会い、大阪ものから社会派に転じていく彼女の跡を追ったころのことだ。そうか、戦後史は生々しい権力との闘いの中で描ききれるのだと気づかされ、私の戦後史への導きの書となった。
本書は、さらにその後、『大地の子』や『運命の人』へとあの戦争を描く後年の山崎豊子の心の叫びの章から始まり、若きころの文学体験に立ち戻り、大阪へのこだわりを紡ぎ、高度成長期へ向かう時代の講演とエッセイを披露している。
戦時から戦後へ、毎日新聞勤務時代の先輩井上靖との出会いから、文芸修業を続けていく様子を読むと、すさまじい努力と、モノに憑(つ)かれたような仕事ぶり。今ではもう失われた修業一筋の人生譚(たん)だ。
大阪についての章は、気楽に、食べ物やおしゃれなど近辺雑記がうかがえてホッとするし、井上靖との師弟関係もホノボノとした味わいがある。
ただ一点、夫婦が共働きをどう維持したのかについていくつか触れているが、これは大変な戦いであった。それは夫との戦いを、それこそ度肝を抜くような試行錯誤を経て、自分との戦いにしてしまう。いや、山崎豊子は果たしてこの戦いに解を見いだしたのだろうか。略年譜に夫の死の記載を見て、その後あの戦争を描くことに突き進む姿を重ね合わせた。果たして私の〝読み〟は間違っているだろうか。
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やまさき・とよこ 1924年大阪生まれ。毎日新聞入社後に『暖簾』でデビュー。『花のれん』で直木賞を受けた後に退社し、執筆に専念。ほかに『白い巨塔』『大地の子』『沈まぬ太陽』『運命の人』など。2013年死去。