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「終わった町の話をしよう」芦花公園さんインタビュー 不条理な滅びの物語

©GettyImages

大いなるものの怖さを描いたホラー

――『終わった町の話をしよう』は、「神」が実在する地方都市を舞台にした、個性的なホラー小説です。執筆のきっかけを教えていただけますか。

 以前10代向けのアンソロジーに書いた「終わった町」という短編がもとになっています。10代の若者にとって一番怖いものって何だろうと考えて、「自分だけが正気で、まわりの人はみんな様子がおかしい」という状況を思いつきました。それで神の罰によって主人公以外が滅んでいく町の話を書いたんですが、この舞台でもっと長い話を展開できそうだなと思ったんです。それが執筆のきっかけなので、舞台は短編版の「終わった町」と同じですね。ただ短編版にあった因果応報的な要素は今回カットしました。短編版はメインの読者が10代なので「いじめに加担した人たちがひどい目に遭う」という展開を盛りこんだのですが、そういう因果関係はない方がホラーとしては怖くなりますから。

――東京の文具会社に勤める主人公の千家彩音(せんけ・あやね)は、突然関西のさつき町への赴任を命じられます。その町では「声無き神」という超自然的な存在が、住人たちに信仰されていました。

 意識したのは、さつき町をいかにも寂れた寒村のように書かないということ。駅前がそれなりに栄えていて、マクドナルドもあるくらいの地方都市のイメージですね。そのくらいの規模の町ってあまりホラーで扱われていないので、逆に新鮮で面白いんじゃないかと思いました。それと近年「因習村ホラー」がすごく流行っていて、閉鎖的な村を扱ったホラーがたくさん書かれていますが、一部ではそうした作品に対する批判も見られますよね。この作品ではそれを逆手に取って、一見よくある因習村もののように始まり、後半になると全然違うものになるという流れを狙っています。

――雷とともに突如さつき町に出現した声無き神は、人知を超えた力で町に影響を与えていく。とにかく圧倒的な存在感ですね。

 住人たちの畏れの対象です。fear(恐怖)でもあるしfaith(信仰)でもあるというか。単純な幽霊ものや怪物ものよりも、こういう「大いなるもの」を描いたホラーの方がわたしは好きなんですよ。もしかするとスティーヴン・キングの『IT』の影響もあるかもしれません。『IT』も原作では地球外からやってきた神のような存在じゃないですか。それがデリーという町に潜んでいて、住人に影響を与えている。さつき町は言ってみれば私なりのデリーです。ただ『IT』では邪悪な神を封じ込めることができたけど、声無き神は人間には対処のしようがない。そこがちょっと違いますね。

「旧約聖書」の神をイメージして生まれた「声無き神」

――彩音が命じられた仕事とは、町の住人から順に話を聞き、文章にまとめること。第1話では教室に「かみさまの席」を作った小学校教師が、第2話では小心者のため善人のふりをしていた郵便局員が、神の逆鱗に触れ罰せられていきます。

 声無き神が何を喜んで、何を嫌がるかは住人には分かりません。私の中では明確な基準があって、それに沿ってエピソードを作っているんですが、知らないと不条理な神の怒りに見える。たとえば第1話の先生は、神について自分の解釈であれこれ語ってしまった。これは相当レベルの高い罪なんです。逆に第3話に出てくるホラー作家は、神の存在を創作の形で世間に広めたので、祝福されているんですね。歪んだ形の祝福なので不幸になったように見えますが、実はそうでもないんですね。

――コミュニケーションが成立せず、何が神にとっての正解かも分からない。これは怖い状況ですよね。

 声無き神って、わたしが『旧約聖書』を読んだ時に感じた、父なる神の怖さをもとにしているんです。人間の願いや理屈がまったく通じないように感じる場面があって、結構怖いんですよね。わたしが初めて聖書をちゃんと読んだのは高校の時ですが、その時は、何が神の怒りに触れ、何が祝福につながるのかがうまく理解できず、神が何を考えているのか分からなくてびっくりしました。その時の感覚をホラーに生かしていると言ったら叱られそうですが、そういう部分もあるんですね。

――第3話では虚栄心のために神の存在を利用した作家が、第4話では愛する妻の死を受け入れられなかった神主が登場。8つのエピソードにおいて人間のどうしようもない愚かしさ、欲深さが露わにされます。

 わたしはよくクズな人間ばかり書くと言われるんですが(笑)、世の中には善人も悪人もいないと思っています。人間の中にはいくつものレイヤーがあって、接する人や環境によって善の部分が出てくることもあれば、悪い面が出てくることもある。この小説の登場人物たちも、きっかけがなければ愚かさや欲深さが露わになることもなかったはずなんですよ。またスティーヴン・キングの話をしますけど、キングもそういう気持ちでキャラクターを書いているんじゃないかなという気がしますね。『ミスト』なんて人間の嫌さを煮詰めたような小説ですけど、非常事態でパニックに陥ってさえいなければ、登場人物はみんな常識のあるいい人たちだったと思うんです。

――主人公の彩音も仕事を続けるうち、さつき町を覆う現象に絡め取られていきます。彼女はどういう人物として描いていますか。

 彼女も善人でも悪人でもないんですよ。ただ行動や発言が軽率で、ちょっと偏見の強い人。よくいるタイプとして描いています。彼女が過去に行ったあることも、他人を喜ばせようという気持ちから出てきたもので、決して悪意があったわけではないんですよね。

――時計の針が逆に動いたり、火葬場の煙がいつまでも消えなかったり、昨日のままの新聞が届いたり……という町の異変の数々が、シュールで実に不気味でした。これまで書かれてきた作品以上に、「得体の知れないものに触れている」という感じが強いですね。

 3年前に出した『食べると死ぬ花』では思いっきり宗教の話をやろうと思って、いくつものエピソードを聖書から引っ張ってきているんです。キリスト教的に読み解こうとすれば、かなり深いところまで読み解ける話なんですが、そこまで聖書にのっとって書いてしまうとやっぱり「分からない」という人が出てきてしまうんですね。自分なりの宗教ホラーをやりきったという思いはあるんですが、怖さよりも難しさを感じてしまった方もいたみたいで。そこで今回は聖書の要素をほとんど使わずに、オリジナルの宗教を作るくらいの気持ちで書きました。考えても分からないのではなく、分からなくて当然。でも面白いという作品を目指しています。最近は「考察ブーム」と言われていて、読者が考察したくなるような余白をあえて作った作品も出てきていますが、理由もなくただ起こることって世の中にはいっぱいあるじゃないですか。そういう考察ブームへのアンチテーゼみたいな気持ちも少しありました。

 

芦花公園『終わった町の話をしよう』(双葉社)

クリスチャンであることと、ホラー作家であること

――現代のホラーシーンにおいて、キリスト教を背景にした芦花公園さんの作品はユニークな位置を占めています。クリスチャンであるご自身の信仰心と、ホラー作家としての仕事はどういう関係にあるんでしょうか。

 そのふたつは密接に結びついています。一方でそれとこれとは別だとも思っていて、同じクリスチャンの方でも、わたしの書くものを冒涜的だと感じる方はいらっしゃると思います。だから他の方が冒涜的なことを書いていても、あまり怒る気になりません。ただ信仰を面白おかしく扱ったことは、これまでもないはずなんですよ。基本的には信じる者は救われるという方向の話になっているし、信仰心を持つのは悪いことではないという書き方をしてきたつもりです。という言い訳を、怒られたらしようと思っているんですけど(笑)。

――『終わった町の話をしよう』はヒーロー不在の小説で、謎解きもなければ派手なバトルシーンもありません。地方都市の終末を静かに描いている小説なのに、異様に怖い。芦花公園さんのノンシリーズ作品の到達点だなと感じました。

 ありがとうございます。静かなホラーに対する憧れが結構あるんですよね。恩田陸さんに『私の家では何も起こらない』という作品があるんですが、本当に派手な事件は何も起こらないんです。でもすごく怖いんですよね。小野不由美さんの『残穢』も淡々として静かな小説じゃないですか。遠いところで気味の悪い話がずっと語られている感じ。今回はああいうのをやりたかった。もちろん、キャラクターの魅力を前面に押し出したシリーズものを書くのも楽しいんですよ。それぞれに書く喜びがありますが、こういう静かなホラーには、また特別な思い入れがあるのかもしれません。

――2021年に『ほねがらみ』で鮮烈なデビューを飾ってから5年が経過しました。ホラー作家を続けてこられて、心境や環境の変化はありましたか。

  私自身は、書くうえで意識する制約が多くなりましたね。これを書いたら炎上するんじゃないか、前後を切り取られて強い表現だけが一人歩きするんじゃないかということを、常に意識するようになりました。でもひねくれ者なので、世間的に書いていいとされるような話はあまり書きたくなくて。読者を嫌な気持ちにさせるような表現をするなと言われても、ホラーって本来そういうものだから困ってしまう(笑)。制約をかいくぐりながら、あまり萎縮せずに書いていきたいと思っています。

――では今後どのような作品を書いていきたいですか。

 今はモキュメンタリーホラーが流行っていますけど、正直、わたし自身はあまり好みではないんです。もちろん優れた作品もありますが、わたしが読んだものでは、『お化けに出会う瞬間の怖さ』が強く印象に残っています。一方で、わたしが特に書きたいのは、読み終わってからも日常の見え方が変わってしまうようなホラーです。『IT』を読むとピエロが怖くなる、『残穢』を読むとひとり暮らしの部屋が怖くなる、澤村伊智さんの『ぼぎわんが、来る』だと家族というものの捉え方が変わる。優れたホラーは読み終えた後も、人生に影響を与え続けるんですね。わたしの作品を読んだ方にも、そういう経験をしてもらえたら嬉しいです。

――今月(2026年10月)には「佐々木事務所」シリーズのスピンオフ短編集『美しい贄』(角川ホラー文庫)も刊行されるそうですね。

 はい。物部斉清(もののべ・なりきよ)という拝み屋を主人公にしたスピンオフ短編集です。こちらは隠喩も暗喩も使っていないエンタメホラーで、今まで書いた中でもっとも分かりやすい作品になっています。『終わった町の話をしよう』との温度差がすごいですが(笑)、あわせて楽しんでください。