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日英韓のホラーや怪談を読み比べ 「予言のけもの」など収穫3点

件ホラーの新たな収穫

『予言のけもの』(KADOKAWA)は、ホラーの次代を担う新鋭・尾八原ジュージ初の書き下ろし長編だ。本書はある妖怪をモチーフにしていて、というとタイトルからピンとくる読者もいるだろう。人面牛身で生まれ、予言をした直後に死ぬとされる妖怪・件(くだん)だ。

 作品の大半を占めるのは、著者(尾八原)があるルートから手に入れた古い大学ノートの記述。そのノートは昭和19年2月、岡山県の山村で暮らす少女・蔵橋塔子が、「ねえさま」と呼ぶ長良由布子にあてて書いた長い手紙だった。塔子が生まれ育った関ノ守村は、たくさんの牛がいる小さな集落で、しかも怪談の宝庫。怖い話や不思議な話が大好きなねえさまのために、塔子はせっせと、これまで見聞きした怪談を書き綴る。

 山の中を歩いていた男が高い木々の間に見かけた人の顔、幼い兄弟が目撃した屋根の上に立つ腰の曲がった老婆、死んだらノッペラボウになってしまう村の人々。柳田國男の名著『遠野物語』を彷彿とさせるような怪談の数々に引き込まれつつページを捲ると、ときおり「おや?」という記述にぶつかる。

 手紙の端々からは、蔵橋家には何か秘密があるらしいこと、塔子が現在置かれている状況も普通ではないことが伝わってくる。では何のために塔子はこのノートを綴っているのか。それらが明らかになるのは、物語も終盤に差しかかってから。いくつもの怪談がひとつに繋がり、関ノ守村の忌まわしい秘密が浮かび上がるのだが、そこには未来を告げる妖怪・件の存在も深く関わっている。切々と訴えかけるような少女の一人称語りが、周到な仕掛けをいっそう際立たせており、重たい話なのに読後感は妙に優しい。内田百閒「件」、小松左京「くだんのはは」の系譜に連なる、“件ホラー”の新たな名作といえるだろう。

正統派英国怪奇小説に酔いしれる

 お次はイギリスのホラーを。『誰かがいる部屋 A・M・バレイジ怪談傑作集』(植草昌実編訳、新紀元社)は、知る人ぞ知る怪奇小説の名手による、日本初の傑作集(電子書籍では1冊傑作集が刊行されているが、紙の書籍では初となる)。A・M・バレイジは1889年生まれ。20世紀初頭から文筆活動を始め、1956年に没するまで40余年にわたって作品を発表し続けた。中でもバレイジが得意としたのは怪奇小説で、イギリスの正統派ホラーの流れを汲む作家とされる。

 今回バレイジの短編を13編まとめて読んでみて、つくづく語りの上手い作家だと感じた。たとえば表題作の「誰かがいる部屋」。夜道で事故に遭った上流階級の女性が、一晩滞在することになった家で幽霊を見るというシンプルな話なのだが、クライマックスにいたるまでのエピソードの積み重ねが効いていて、奥行きのある恐怖を生み出している。今も昔もホラーで大切なのは話の運び方なのだ。

 その事実をバレイジが熟知していたことは、若い男性が木の怪に魅入られる「山査子の木」、幽霊を信じない新聞記者が怪談を書く羽目に陥る「クリスマスの幽霊物語」などの秀作からも明らかだろう。よくあるといえばよくある話なのだが、バレイジの手にかかるとそれが宝石のような光を放ち始める。

 一方でバレイジは鮮烈なアイデアストーリーを残してもいる。「パドック・クロスでの出来事」は事故で気を失った主人公が、150年前に同じ通りで起こった出来事を夢に見るという話。二つの時代が交錯し、なんとも不思議な読後感をもたらす。地図にない駅の記憶を扱った「間違った駅」、時間のねじれをテーマにした「子供は大人の父なり」などもアイデアが冴えわたっており、短編ドラマの原作になりそうだ。

 巻末の「遊び友達」は日本でもよく知られた代表作。エヴァートン家に引き取られた孤児のモニカは、屋敷の空き部屋で長い時間を過ごすようになる。モニカの他に誰もいないその部屋からは、何人もの子どもたちの声が聞こえてきて……。恐怖と哀感が綯い交ぜになった読み味は、まさにバレイジの真骨頂。これは英国怪奇小説の王道であると同時に、優れた人間ドラマの王道でもある。「英国のオー・ヘンリー」とも評される作風は、現代の読者にも受け入れられるだろう。

隣国・韓国で語られている怖い話

 3冊目は島村恭則『韓国の都市伝説 民俗学者の怪談ノート』(ちくま文庫)。民俗学者である著者は、大学院修了後の1994年、韓国の大学に講師として赴任した。民俗学を研究するうえで、東アジア諸国との比較は欠かせないと考えたためである。現地の学生たちと交流するなかで、多くの怪談や都市伝説を収集。それらを論文にまとめ、帰国後も国際シンポジウムなどで韓国の都市伝説についての発信を続けてきた。その成果を一般向けにまとめたのが本書(親本は2003年刊行)である。しばらく入手困難な時期が続いていたが、今回のちくま文庫化によって手に取りやすくなった。

 さてお隣の韓国ではどんな怪談や都市伝説が語られているのだろうか。「学校の怪談」「受験地獄」「病院にて」「軍隊の噂」などのパートに分けられた本書には、日本人にもなじみの深いエピソードが散見される。たとえば放課後のトイレで「赤い紙がほしいか? 青い紙がほしいか?」と声をかけられる「赤い紙、青い紙」。共同墓地から乗せたタクシーの女性客が忽然と消えてしまった「幽霊を乗せたタクシー」。深夜0時に水を張った洗面器を覗くと将来の結婚相手が見えるという「夫の顔から真っ赤な血が」。これらは人類に共有されている物語の枠組なのかもしれないし、東アジアの文化圏に特有のものかもしれない。35年に及ぶ日本の統治時代の影響もあるだろう。いずれにせよ日本と韓国の若者が、同じような怪談を語り継いでいるというのは興味深い。

 もちろん韓国独自の社会や文化が反映された怪談や都市伝説も含まれている。学生が受験勉強中に体験したエピソードが多いのは、受験戦争が苛烈な韓国ならではだし、高層アパートを舞台にした怪談は韓国の住宅事情が大きく関係しているようだ。日本のそれと似ているようで異なっている他界観や先祖祭祀の風習も、怪談の向こう側に見えてくる。

 近年公開が増えてきた韓国のホラー映画をより理解するためにも格好の一冊。植民地支配や軍事政権に抵抗するための庶民の知恵でもあったという韓国の怪談や都市伝説を、この機会に味わってほしい。