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歴史は繰り返すのか、逆行してしまうのか――半藤一利『新版 世界史のなかの昭和史』を今こそ読む理由

記事:平凡社

ベストセラー〈昭和史〉シリーズ全4冊が新版に! カバーデザインを一新し、新たに各章のポイントとキーワード、解説、索引を追加しました。
ベストセラー〈昭和史〉シリーズ全4冊が新版に! カバーデザインを一新し、新たに各章のポイントとキーワード、解説、索引を追加しました。

平凡社ライブラリー『新版 世界史のなかの昭和史』(半藤一利著、2026年7月3日刊)
平凡社ライブラリー『新版 世界史のなかの昭和史』(半藤一利著、2026年7月3日刊)

 この稿を書いている2026年5月、いったい世界はどこへ向かおうとしているのか。

 こんな日がまた訪れるとは正直思っていませんでした。どこか“過去の悲劇”であったあの時代、怪物的で殺人鬼のような少数の独裁者が、大衆の熱狂的な支持を得て世界を動かした前世紀のあの時代が、とリアルに想像できるようになってしまいました。歴史は繰り返すどころか逆行しているのでは……そんな問いを抱かない日はありません。日本は何ができるのか。どう動くのか。なんらかの巨大な力に利用され、振り回され、あるいは追随し、ふたたび悲劇の道をたどるのか──半藤さんが生きていれば何を語るでしょう。その声を聴くには、本書に耳を澄ますのが一番かもしれません。

 日本列島だけが描かれた地図を見ているとピンとこなくても、世界地図を広げれば、日本が大海に浮かぶ小さな島国であることが実感されます。面積でいえばロシアの約45の1、アメリカの約25分の1。昭和初期、アジアの小国である日本がなぜ、ほとんど全世界を敵にして戦うことになったのか。既刊『新版 昭和史 戦前篇 1926-1945』では、おもに国内の政治や軍部など指導層の動きを追うことで、戦争が避けられなくなってゆく過程をみてきました。一方で視野を広げてみると、各国の思惑や関係、それらによって微妙に、ときに大きく変わる、片時も止まることのない国際情勢のなかで、日本はどう動かされ、どんな位置に立たされて戦争へと突き進んだのか、自国の事情を追うだけではわからないことも、巨視的になれば見えてくることが少なくありません。そのすべてが絡み合って昭和20年8月の無条件降伏につながったのです。

 「ヒトラーとスターリンとルーズベルトが動かした日本昭和史」と銘打たれた本書は、著者が86歳から87歳のときの仕事で、15年をかけた『昭和史』シリーズの完結篇にあたります。今回の新版では、巻末に詳細な索引、各章の冒頭にその章のポイントとキーワードが加えられました。

 なお原稿の大部分がかかれた2017年は、アメリカでは自国第一主義を掲げたトランプ大統領(第一期)、日本では長期にわたって安倍首相が政権を握っていました。それらへの辛口の言及も散見され、過去を語りながら現代を見すえる姿勢がうかがえます。また日中戦争のドイツによる和解策にからむ軍部の話ほか、既刊でふれなかったり、簡単に済ませたいくつかの件が詳しくのべられており、そこでは2014年秋に公開された『昭和天皇実録』が新史料として活かされるなどのアップデートがなされています。

 「歴史は無情で、残忍で、非人間的な、酷薄なもの、つねに思いもかけない偶然を用意する」、それも想定外に悪い偶然であり、人びとがそうあってほしいと期待した方向に歴史は進まない、と著者はのべます。じっさい本書が緻密に描くのは、昭和の幕開けとほぼ同時にスターリンとヒトラーという「二人の非人間的で極悪な指導者」がその姿を世界史に登場させたというとんでもない“偶然”や“歴史の皮肉”が重なり、それへの対応力をもたないどころか夜郎自大かつ不相応に「大いなる夢想」を追い求めた昭和前半の日本が、世界の指導者たちが起こす波に翻弄され続けたさまであり、これを「かわいそうな昭和史」と著者はよびます。

 ところで、いったい一人の人間がどれほど世界を変えうるのか。

 はたして個人が、歴史を動かせるものでしょうか?

 今の世の中をみると、しかし、まさに少数のとてつもない力をもった指導者が世界全体を動かしているのではないか、と呆然とせざるを得ません。一人の権力者が執着する対象への見境のない突進が世界を揺さぶりつづけるさまを私たちは目の当たりにしています。一人のリーダーの思惑によって、明日にも戦争が始まり得るさまを。

(やまもと あきこ/「昭和史」シリーズ編集者)

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