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昼も夜も暗闇、未知の世界に挑む

極夜行 著者:角幡 唯介 出版社:文藝春秋 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

価格:1890円
ISBN: 9784163907987
発売⽇: 2018/02/09
サイズ: 20cm/333p

暗闇のなか、氷床を歩き続け3カ月ぶりに太陽を見た時、人は何を思うのか−。太陽が昇らない冬の北極を、一頭の犬とともに命懸けで体感した探検家がつづる冒険ノンフィクション。『文…

評者:宮田珠己 / 朝⽇新聞掲載:2018年03月04日

極夜行 [著]角幡唯介

 北極圏には、何カ月もの間まったく太陽が昇らない一帯がある。探検家角幡唯介がその極夜に挑んだ。
 ときに月が地表を照らすことはあるが、ほぼ毎日真っ暗闇のなか、氷河を越え、ツンドラを抜け、白熊や狼(おおかみ)のうろつく海氷の上を相棒の犬とともにひたすら歩く。GPSもなく、景色も見えないのによく目的地にたどりつけるものだ。事前に運んでおいた食料が白熊にすべて食われていたり、強烈なブリザードに閉じ込められたり、読みながら何度も、ああ、こりゃ著者死んだな、と思った。
 角幡唯介の探検記はいつも極限状態に読者を引きずり込む。読むうちに、自宅の快適なベッドで寝ころんでいるのに、早く家に帰りたいと思うほどだ。それほどに臨場感あふれる筆致で、探検というものの厳しさ、探検家の揺れ動く心理まで鮮やかに蘇(よみがえ)らせる筆力は、見事というしかない。
 なかでも今回の探検は別格だ。そもそも昼も夜もずっと暗闇の世界に4カ月もいたら、気がおかしくなるのではないだろうか。恐怖、不安、沈鬱(ちんうつ)と闘う日々。食料が足りない絶望的な状況に陥った彼は、当初の計画を捨て、麝香牛(じゃこううし)を狩るべくさらなる闇の奥へと踏み込む決断をする。だが月の光に地理感覚を惑わされ、いっそう窮地に。
 一方、そんななかにあっても、極夜は荘厳な美しさで探検家を魅了し続けた。地球以外の惑星に降り立ったかのような光景。時間感覚さえ失う異様な状況下で、探検家の思索は、太陽のある世界では想像しえない方向へと深まっていく。
 こんな規格外の探検記は初めて読んだ。地球はもう探検しつくされ、今はもう探検家が活躍できる場所が残っていないと言われる。しかし、人跡未踏の土地は残っていなくても、未知の世界を探検することはできるのだ。
 そうして旅の終わり、探検家は4カ月ぶりに太陽に再会し、世界に色彩が溢(あふ)れる。ぐっときた。
    ◇
 かくはた・ゆうすけ 76年生まれ。ノンフィクション作家、探検家。『空白の五マイル』『アグルーカの行方』。