1980年代は理不尽なまでの管理教育や校内暴力が広がり、学校が荒れていました。うちの子からも、先生に殴られたりいじめられたりすると聞いていました。全共闘世代が大人になって、その子どもたちがちょうど中学生ぐらい。親世代は、学生時代にあれだけ体制批判をしていたのに、自分の子どもには親や学校の言うことを聞けという。それはちょっと違うんじゃないかと思い、子どもの視点から大人に立ち向かうお話を書こうとしたのがきっかけです。子どものために書いたわけではありませんでした。本が世に出ると、親世代からの関心はなく、子どもたちが面白がって読んでくれました。
東京タイムズで82年に連載した小説「少年みなごろし団」が前身です。子どもたちが秘密結社をつくり、汚いおとなをやっつけるお話。角川書店の編集者から、「うちの娘が『お父さん、これ面白いよ、この人に書いてもらえば』と言うので、子どもの小説をお願いしたい」と依頼があり、『ぼくらの七日間戦争』が生まれました。
当時の子どもには、自分たちで隠れ家を作ることなんて考えられなかった。だからみんな僕の小説を喜んでくれたのでしょう。シリーズになるとは思いもしませんでした。宮沢りえさんが主演で映画化されて、すぐに評判になった。そして、次々書けと言われました。今はKADOKAWA会長になった角川歴彦(つぐひこ)さんから、「子どもの本は誰でも1冊や2冊は書ける。自分の子ども時代があるから。しかし何冊も続けて書ける人はほとんどいない。だから続けて下さい」と言われました。主人公たちが中学から高校に進んでも書き続けているうちに、こんなに長いシリーズになりました。
主人公の英治も、親友の相原も、みんな普通の子どもです。特別な才能があるわけじゃないし、とりわけ勉強ができるわけでもない。普通の子だから良かったのかもしれません。
子ども向けに書いたわけではなかった
以前は、読者から段ボール箱いっぱいの手紙が届きました。「聴覚障害があって、友だちができない」という長野県の子どもから手紙をもらって会いに行きました。話を聞いて、その子をモデルにして、耳が不自由な少年を小説に登場させました。入退院を繰り返していた白血病の女の子から手紙をもらい、白血病の子を登場させたこともあります。いまは出版社のサイトに投稿されるコメントで読者の声を読んでいます。
いたずらを思いついて書くときが一番面白いですね。子どもは校長先生をやっつけるお話が大好きです。僕自身の少年時代は戦争中でしたから、遊ぶことはもちろん、いたずらなんてできなかった。だから大人になって、僕が中学生だったらこんなことやりたいな、といういたずらを書いています。
『ぼくらの学校戦争』(2011年)はよく読まれているそうです。廃校のプールに悪い大人と寒天を入れて「人間羊羹(ようかん)」にする。思い切ったいたずらは書いていて楽しいし、子どもの評判もいい。もっとやれもっとやれ、という声が届きます。
ところが大人からは、暴力はやめてくれとか、「バカ」と書かないでくれと言われるようになりました。教育上よろしくない、と。悪いことを生き生きと書きにくくなりました。弱い者いじめは書いていません。
毎回テーマを考えるのに苦心はしません。悪い大人は数限りなくいるから、まったく苦労なく書ける。悪いからね、大人は。今の政府だって、あることをないと言い張るのだから、おかしいです。
この30年で子どもの本質は変わっていないと思う。『ぼくらの七日間戦争』が読み継がれているのは、いつの時代も子どもは、悪い大人をやっつけることが好きだからだと思います。
書き下ろし最新刊の『ぼくらのハイジャック戦争』は「ハイジャックやテロを題材にして書いてほしい」という読者からのリクエストを受けて、中学生をハイジャック犯と戦わせました。中学生がハイジャック犯をやっつけるなんて難問です。そこで、数学と機械に強い谷本にある機械を作らせました。僕が今一番関心があるのは、AI(人工知能)とVR(仮想現実)。次のお話では谷本にVRを使わせますよ。30、40年先の未来を考えることはとても面白い。僕は存在しないけれど、いまの中学生が大人になった世界はどうなっているんだろう。
大人の持っている常識を踏み越えてしまう子どもがいいですね。そんな子どもたちをこれからも書いていきたいです。
(聞き手・中村真理子)=朝日新聞2017年6月28日掲載