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鷲田清一、山極寿一「都市と野生の思考」書評 「おもろい」二人のデスマッチ

評者: 横尾忠則 / 朝⽇新聞掲載:2017年10月15日
都市と野生の思考 (インターナショナル新書) 著者:鷲田 清一 出版社:集英社インターナショナル ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784797680133
発売⽇: 2017/08/07
サイズ: 18cm/220p

都市と野生の思考 [著]鷲田清一、山極寿一

 中学時代のアイドル●(●はハート)江戸川乱歩『怪人二十面相』と南洋一郎『密林の王者』が現在のワシを作った。都心の焼け跡に建つお屋敷の地下室とアフリカの密林の奥の洞窟はワシの中で都市と野生をひと繋(つな)ぎにした。
 本書は二十面相とターザンが知と知の饗宴(きょうえん)、肉と肉の激突によって「頭がええ」部分よりも「おもろい」部分で対決する二人のデスマッチでワシは大いに期待したのである。
 鷲田学長は都市の暗黒街に美を漁(あさ)るファッショナブルな怪人二十面相に変装。片や、山極総長にはゴリラに育てられた野生のみなし児ターザンを演じてもらおう。二十面相と類猿人ターザンのアンファンテリズム(幼児性)対決にパンドラの函(はこ)が開いて血湧き肉躍るあの日。ワシの中に幼児性を発見したのも都市と野生の対決を鷲掴(わしづか)みにしたからである。
 今、二人が知のぬいぐるみを脱ぎ捨てて、肉体派の学者に転じた瞬間に読者は立ち会っているのである。二人の思考のダシの素は無目的なアートと遊戯にある。アートには目的がない? そんなことない。アート行為それ自体が目的や。遊びと同んなじでっしゃ。結果も考えまへん。学問とは違いまっせ。アートも遊びもプロセスが「おもろい」のや。山極曰(いわ)く「頭のええ、小回りのきく賢い学者」は、アートや遊びは無用の長物だと思ったはるに違いない。
 シルクハットに仮面にマントの鷲田二十面相と、腰巻き一丁、手に短刀、小脇にジェーンの山極ターザン、雄叫(おたけ)びを上げながらゴリラに教わった野生の哲学でモダニスト二十面相に憑依(ひょうい)した鷲田に襲いかかる。と、五条の大橋でひらりと身をかわす美の盗賊の次なる一手は? ここ、東山三十六峰草木も眠る丑(うし)三つ刻。加茂の河原に突如闇を劈(つんざ)く剣戟(けんげき)のひびき! そこに出現したヒトラー。「戦いは虚無だ!」
 (ここでハタと眼〈め〉が醒〈さ〉めてしまいました)
    ◇
 わしだ・きよかず 49年生まれ。哲学者。京都市立芸大学長▽やまぎわ・じゅいち 52年生まれ。霊長類学者。京大総長。