頭をちょこんと下げながら、能年です、と取材の部屋に入ってきた。本名、能年玲奈。今はのん。
出版社は最初、のんをゲストに迎えたファンブックを作ろうと提案した。「こっちの方が面白いですよと勝手に企画を言ってたら、あれよあれよという間に」。大きな絵を描くアクションペインティングに挑戦したり、憧れの人と対談したり。すっかり形を変えて、のん自身が企画編集というアートなムックになった。「乗っ取りました」。ふふ、とうれしそうだ。
もともと絵を描くことが好き。真っ白な部屋の壁いっぱいに鮮やかな絵の具を走らせた。何を描くかはもちろん、使う素材だって自由。純白のドレスにも大胆に色をのせていく。そのドレスを着たら「そうだ、富士山で写真撮ろう」。富士山を背にジャンプした1枚は「楽しい」があふれている。
「表現することすべてに興味があります。欲張りなので」。本書の対談も表現をめぐって。「かっこかわいい」と憧れる桃井かおりとは自分に引き寄せて演じることを、矢野顕子とは子どものままでいることを語り合った。
肩書は「女優、創作あーちすと」を名乗る。「女優がアーティスト活動をするというと、鼻につく感じじゃないですか」。だからひらがなで「あーちすと」なのだそう。「ちゃっちいくて、うさん臭くて、いいかなと思って」
朝ドラ「あまちゃん」での伸びやかな演技で国民的俳優に。しかし本人は「演技が正しいかどうかと考えがちで、自分を解放することが苦手でした」。正しさではなく、その役の気持ちで自由に動きたい。これは演技に限らないこと。気ままに見えるこの本も「感じるままに」を目指した結果なのだ。「自由にするためにうさん臭くしている。自由な時の方が良い表現になると思うから」
最後に何か絵を、とペンを渡すと、桜の花びらを描き出した。掲載が5月だと伝えてもペンを持つ手に迷いはない。どんどん桜を描く。これが感じるままか。犬のような羊と、枝に串刺しの魚。自由は、不思議で楽しい。(中村真理子)=朝日新聞2017年05月07日掲載
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