「あやしい探検隊」で知られる行動派の作家・椎名誠さんは、自身を「好奇心の雑貨屋」「幸福な疑問男」という。本書を読むとそのままに、少年期から想像力や旅心を刺激する科学系の知識に親しみ、楽しんできた姿が浮かぶ。
例えば、ノミの跳躍力は体長の150倍以上だという。体長1ミリなら15センチ以上。もし170センチの人だと250メートル以上跳ぶことになるが、椎名さんの好奇心は、この高さにいる人と共に秒速約400メートル(日本付近)で自転している地球を眺めてみたいと膨らむ。「宇宙エレベーター」など宇宙関連の話では、壮大な未来図も見せる。
一方、極寒極暑の辺境の地など本書で回顧する様々な旅の原点は「幼い頃の素朴な疑問や夢」だという。子供の頃に読んだ『さまよえる湖』の楼蘭や『十五少年漂流記』の孤島は、どんなところか。それを確かめたいとの夢が大人になって実現するが、「行動しながら出会う不思議」は新たな疑問を生む。椎名さんはその都度、読書で解明を試みてきたという。
「僕は本当のことが好きなんですね。自宅にはたくさん本がありますが、自然科学や冒険探検ものがほとんど。とくに人類大移動の跡を追う旅だとか、大きなテーマを持ったものが好きで、小説の類いは『ハイペリオン』など気に入ったSF以外、少ないです」
そしていまも好奇心は子供のときのように健在だ。「確かに、自分の中に少年性を感じますね。僕にはすべてが遊びなんですよ」。では勉強やバイトに追われ、大人の忖度(そんたく)やウソを見せられている今の日本の子供たちは、椎名さんにどう見えているのだろう。
「かわいそうですね。今の日本は最悪じゃないですか。先進国というけど、海外の大人の国と違い、周りが無意味に、必要以上に関わりすぎる。そのわりに不親切で、子供たちは真の心の優しさを学んでいない。勉強だけできてもだめなんです。僕はこの不自由な国に生きていることが悲しい」
とはいえ、好奇心旺盛な10代の若者も多い。椎名さんは彼らと改めて向き合おうと考えている。
(文・依田彰 写真・飯塚悟)=朝日新聞2017年8月20日掲載
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