- 『時間線をのぼろう』 ロバート・シルヴァーバーグ著 伊藤典夫訳 創元SF文庫 1080円
- 『晩夏の墜落(上・下)』 ノア・ホーリー著 川副智子訳 ハヤカワ文庫 各821円
- 『明治・妖モダン』 畠中恵著 朝日文庫 626円
じっくり読む幸せもあるが、丸呑(まるの)みするような一気読みの陶酔感も良いもの。
(1)巨匠シルヴァーバーグによるタイムトラベル艶笑譚(えんしょうたん)。時間遡行(そこう)技術が確立された未来、タイムクーリエとして働くジャドは自身の祖先と出会い、恋に落ちる。壮麗なビザンティンの描写、揃(そろ)いも揃って奇人揃いの同僚達(たち)、まるでパズルのようなタイムパラドクス。果たして時間線をのぼって辿(たど)り着いた場所は。
(2)は、息をして、息を吐く間に読み終わった感。富豪達を乗せた自家用機が墜落。生き残ったのは、偶然同乗していた画家と、富豪の幼い息子のみ。なぜ飛行機は落ちたのか、一人一人丁寧に掘り下げられるバックボーン、そして過熱するマスメディアの醜悪さと共に駆け抜ける上下巻、一気読みです。
(3)時は明治、ところは銀座。煉瓦(れんが)造りの建物とアーク灯が闇を駆逐したように見えるが、妖(あやかし)たちは本当にいなくなってしまったのか。ふわりふわりと残される謎が心地よい、薄明のミステリ。=朝日新聞2017年07月23日掲載