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詩を通したポジティブな連鎖描く「生者のポエトリー」 吉田大助が薦める文庫この新刊!

  1. 『生者のポエトリー』 岩井圭也著 集英社文庫 836円
  2. 『雨上がりのビーフシチュー』 古矢永塔子著 新潮文庫 825円
  3. 『結婚共犯者』 櫻いいよ著 光文社文庫 858円

 連作短編の醍醐(だいご)味を感じる、三作を紹介。

 (1)は詩を書くこと、詩を朗読することの喜びに目覚める老若男女の物語。前の話の主人公の朗読が、その場に居合わせた次の話の主人公の詩情を覚醒させる、という構成は本書のテーマを象徴している。「きっと、よくあることだと思うんすよね。自分の読んだ詩が誰かの耳に届いて、その人を勇気づけるってことが」。そのポジティブな連鎖は、こんなに遠くまで続いていくのだ、と示す最終話のラストが圧巻だ。

 (2)は男性限定の料理教室が舞台。十五歳から七十四歳までの受講生たちがこの教室へとやって来た、のっぴきならない事情を解き明かしていく。料理を学ぶことで人として成長する姿が各話で描かれていたからこそ、第五話で受講生たちがある目的のために一致団結する展開に納得感が宿る。

 (3)はひと組の結婚式に参列した人々の、それぞれの結婚にまつわる理想と現実を綴(つづ)っていく。第一話の主人公は、夫には自分以外の「この世でいちばん大事」な人がいると知っているからこそ、幸せな夫婦関係を築くことができていた――。「ここは天国と地獄の狭間(はざま)」という題名からして不穏な第二話は、途中までは愛のない結婚についてのお話かと思いきや、意外な感情が顔を出す。結婚の意味をさまざまな人物の視点からバリエーション豊かに描く、という連作短編形式を採用したからこそ、この感情を発見できたのではないか。形式が作家の想像力を刺激した、最良の例として記憶したい。=朝日新聞2025年11月22日掲載