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柳田國男の先見性を示す「妹の力・女性生活史」 山﨑修平が薦める文庫この新刊!

  1. 『妹の力・女性生活史』 柳田國男著 中公文庫 1100円
  2. 『増補 シュルレアリスム その思想と時代』 酒井健著 ちくま学芸文庫 1540円
  3. 『洗礼ダイアリー』 文月悠光著 河出文庫 990円

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 文学作品は、隔絶した言論空間に閉ざされているものではない。優れた文学作品が、執筆された時代の証人たりうるのは、作者が生きる時代への批評の表れとして機能しているからに他ならない。

 (1)は、日本民俗学の創始者による一冊。一九二五年に発表された「妹の力」をはじめ、往時の暮らしや、婚姻の歴史についてまとまっている。「妹の力」より百年の時を経て、今日では「女性史」という視点は、欠くべからざるものになった。他方で、「男性」側の「歴史」に関しては、その性を冠に付けずとも受容されている現実があることからも目を逸(そ)らしてはならない。たとえば「女性詩」や「女性文学」においても、この点を共有するものである。「男性」による表現物が、その性を無化されうる現状は、今日の文学において課題となっている。

 (2)は、第一次世界大戦と第二次大戦の戦間期に興った、専ら超現実主義と訳されるシュルレアリスムを概括した一冊。近代社会は、生活の豊かさと引き換えに、様々な軋轢(あつれき)を引き起こした。人間による欲望の臨界点である戦争という蛮行への抵抗を背景として、生への肯定、つまり可能性を模索した文化運動である。この運動は、決して懐古すべき過去の産物ではない。近代社会を今一度捉え直す批判意識をもたらすだろう。

 (3)は、詩人によるエッセイ集の文庫化。とかくステロタイプに嵌(は)められる「詩人」という生き方を逆手にとるようにして、直截(ちょくせつ)に生を描く快活な文は、優れた批評性を有している。(詩人)=朝日新聞2025年10月25日掲載