- 『チャップリン 作品とその生涯』 大野裕之著 中公文庫 994円
- 『チャップリン自伝 若き日々』 チャールズ・チャップリン著 中里京子訳 新潮文庫 767円
- 『服従』 ミシェル・ウエルベック著 大塚桃訳 河出文庫 994円
(1)本書から見えてくるのは創造の現場。撮影しながら考え、何度も悩んでその世界を深めていく姿だ。晩年は過去の自作のための作曲に没頭するなど、人間の寿命の全てを使って作品の可能性を探り続けた。著者は気鋭のチャップリン研究者。彼もまた真実に近づくため何度でも書き、その世界を深めていく。新事実や膨大な資料を駆使してこの天才を高解像度で描く最新作。(2)小銭さえ数え間違わぬ圧倒的な記憶力。最愛の母、父や兄のみならず魅力的な人物が次々と登場するが、特筆すべきはあの男だ。衣装部屋で生まれたチョビ髭(ひげ)の放浪紳士。今なお世界中で愛されている。旧訳の刊行から半世紀。序論を付した新訳。(3)大野氏によるとチャップリンが独裁者の演説を徹底的に茶化(ちゃか)したことでヒトラーの演説回数は激減(恥ずかしくなったのだ)。本書も徹底的に風刺することで強張(こわば)る政治を脱力させる。極右化の果てのまさかの政権交代。極端に変化する社会を静かなタッチで綴(つづ)る、爆笑なき喜劇。原書刊行時、テロが起きた。=朝日新聞2017年05月21日掲載