「少しだけ『政治』を考えよう!」書評 「ことばの力」で主体的になろう
ISBN: 9784775402498
発売⽇: 2018/04/13
サイズ: 19cm/197p
少しだけ『政治』を考えよう! 若者が変える社会 [著]フェリス女学院大学シティズンシップ教育グループ/[編著]島村輝、小ヶ谷千穂 、渡辺信二
少しだけ「政治」を考えよう――。
音楽学部教員のピアニストはベートーヴェンとショパンを語り、音楽の形式と内容の抗いに作曲家の自由への行程を読み取る。
日本文学を専攻する教員は小林多喜二の『蟹工船』からいくつかの章句を引き、現代日本の「ブラック社会」に重ね合わせる。
アメリカ文学の教員は大学教育の根底にリベラル・アーツがあると語り、さらにその核に「読む」(言葉を読む、データを読む、社会を読む、未来を読む)ことへの訓練があることを力説する。フランスの電力会社が原発の?万年先への影響を調査するために招いたのは科学者ではなく、哲学者であったそうだ。
――少しだけ「政治」を考えるということは、音楽や文学にも政治を考える手だてがあることを知ることである。学生がなぜカルトに引っかかりやすいかを問うことは、日本の政治がある種カルト化している現在では、優れて政治的な問いである。経営者の「働かせ方改革」にすぎないものを労働者の「働き方改革」にすりかえる手口など、まるでカルト的だからである。
われわれの身のまわりにはさまざまな政治が充満している。本書の、そして本書のもとになった連続講義のシティズンシップ教育はこの事実を学生に暗に喚起する。そして政治の能動的主体になるべきことを学生に語りかける。
このような教育に対し、大学は政治的に中立であるべきだ、という異論も出よう。だが、人間の主義主張が多様であるから政治が生まれ、主義主張を暴力ではなく「ことばの力」によって闘わせるところに言論空間としての大学の存在理由がある。政治的中立は政治の否定を意味し、人々の政治からの遁走は独裁を台頭させる可能性大である(本書第5章)。
大学は無用の用を追求する。この無用性は時あってか、大なる有用性に転ずる可能性をもつのである。
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しまむら・てる 日本近現代文学▽おがや・ちほ 国際社会学▽わたなべ・しんじ アメリカ文学。